2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K13391
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
白藤 立 大阪市立大学, 大学院工学研究科, 教授 (10235757)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | プラズマ / 液体 / モデル化 / シミュレーション / 時間分解発光分光 / 時間空間分解発光分光 / 気相反応 / 液相反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究開始前の液体と接する気相プラズマに関するモデルは,アルゴンと水蒸気の混合気体において,荷電粒子として正イオンと電子だけが形成されるものであった.これに対し,本年度は,水分子に特有の電子付着の効果を考慮するとともに,アルゴンの発光ピークの起源となっている励起状態の生成と消滅についても考慮した.また,本研究開始前のモデルでは,水を完全導体として扱っていたが,水の導電率,誘電率,厚みを考慮し,水を抵抗とコンデンサの並列回路として扱った.これらの改良により,より実際の系に近いシミュレーションを行うことができるようになり,かつ後述の実験結果との比較が可能となった. 実験面においては,これまで多孔質体の中での水中放電のみを行っていたところを,シミュレーションのモデル空間と一致した単純化された気液界面を持つリアクターを製作し,シミュレーションモデルとほぼ同一の系に対して,時間分解発光分光を適用した.その結果から,アルゴンの発光強度の減衰率よりもヒドロキシラジカルの発光強度の減衰率が大きいことを明らかにした.また,構築したシミュレーションモデルによる計算結果が同様の傾向を示すことを通じて,シミュレーションモデルの妥当性を確認できた. また,バンドパスフィルタを用いた高速時間分解撮像を行い,活性種の空間分布の時間発展を追跡することに成功した.その結果,水面と対向する電極表面からストリーマが進展し,その後,陽光柱,ファラデー暗部,陰極グローのような構造が現れることを明らかにした.こうした放電構造の時間発展をシミュレーション結果と比較することにより,より詳細なメカニズムの検討が可能となった. 液中での反応に関しては,水中プラズマによるメチレンブルー分子の分解生成物をマトリクス支援飛行時間質量分析によって検出した.その濃度の時間依存性から,メチレンブルー分子の分解過程の詳細を明らかにした.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究を開始する前の段階における申請者のシミュレーションモデルは,アルゴンと水蒸気が混在するプラズマを扱ってはいたが,水分子に特有の電子付着の効果を考慮していなかった.また,プラズマと接する液体の水についても,完全導体として近似していた.平成27年度のモデルの更新により,水分子の電子付着が考慮されるとともに,プラズマと接する液体の水の導電率,誘電率,厚みの効果をシミュレーション結果に反映できるモデルを構築できた.また,モデルだけではなく,実験系においても,モデル構造を反映させた単純化された気液界面だけを有するリアクターを製作することができ,その時間分解発光分光の結果とシミュレーション結果を比較することが可能となった.こうした実験と計算の双方を実施できるようになったことは,気液界面プラズマのモデル化を適切に行う上で,極めて重要な進展である考えている.実際,平成27年度では,シミュレーションモデルの妥当性を証明することが可能となった. また,実験面での新たな取り組みとして,時間分解だけではなく発光の空間分布の時間発展を追跡できる時間空間分解発光分光システムを構築した.従前のシミュレーションと実験結果の比較では,放電空間で空間平均した化学種の密度の時間発展と計算結果を比較するまでに留まっていた.これに対し,本システムの構築によって,空間分布の時間発展という,より詳細な情報を比較することが可能となった.こうした知見は,液体表面近傍において大きな密度勾配や電位勾配という空間分布を有するプラズマ液界面の現象を理解するために必須であり,その計測システムと計算との比較が可能となったことは,本研究の目的達成のための大きな前進になったと考えている. また,液中の生成物の分析とその濃度の時間発展を追跡することによって,液中反応を推測することが可能になったことも大きな進展であると考えている.
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Strategy for Future Research Activity |
気相側のモデルについては概ね完成したものと考えている.一方実験系については,活性種の発光分布の時間発展を追跡できるようになったが,ヒドロキシラジカル(OH(A))については窒素(N2)の発光波長に近いため,光学フィルタによる空間分布取得が極めて困難であることが明らかとなった.そこで,次元としては二次元から一次元に低下するが,分光器スリットの縦方向を液面上の空間位置に対応させた空間分解スペクトルを取得する.これにより,OH(A)の空間分布が取得できるだけではなく,光学フィルタによる撮像では得られない振動温度や回転温度の空間・時間発展を取得することが可能となる. モデル化とシミュレーションについては,液体との界面での物質収支を,ヘンリーの法則をもとにした物理的表現でモデルに取り込む.これにより,液体に侵入する化学種,イオン,水和電子のフラックスを定めることが可能となる.次に,これを境界条件として,液相だけのシミュレーションを行うことにより,プラズマ液体界面のトータルなモデル化とシミュレーションが完成することとなる. 気相に関しては,平成27年度の研究により,実験結果とシミュレーション結果を比較することによって,モデルの妥当性を示すことができた.液相の反応モデルについても,妥当性を示す実験結果が必要となる.気相と比較すると,液相化学種の検出方法は限られており,全ての化学種を検出することは不可能である.そこで,本研究では,水中での反応においてプラズマ処理水が有する滅菌作用などの機能を発現するメカニズムに深く関わると考えられているヒドロキシラジカル(OH),ペルオキシナイトライト(ONOO-),亜硝酸イオン(NO2-),硝酸イオン(NO3-)に焦点を当て,これらを,吸収分光スペクトルの波形分離,蛍光試薬を用いた蛍光分光,イオンクロマトグラフィを用いて計測し,計算結果との比較を行う.
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