2015 Fiscal Year Research-status Report
コヒーレントチェレンコフ光を用いたテラヘルツ域のz偏光生成の試験研究
Project/Area Number |
15K13394
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
濱 広幸 東北大学, 電子光理学研究センター, 教授 (70198795)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | チェレンコフ光 / z-偏光 / 電子パルス / コヒーレント放射 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、高エネルギー電子が真空と異なる誘電率を持つ媒質中を通過する際に放出されるチェレンコフ光の偏光特性に着目して、通常の光では存在しない伝搬方向に電場を持つ状態、即ちz-偏光状態の生成を探るものである。単一電子が放つチェレンコフ光は理想的な場合に完全なラジアル偏光である。理想的とは媒質の屈折率に周波数依存がない場合を指すが、そのような物質は存在しない。しかしながら着目する周波数領域があまり広くない場合は仮想的に誘電率が一定と考える事ができる。本研究では屈折率が非常に小さいシリカエアロゲルを媒質(ラジエータ)に用い、またその厚みを1mmとして、電子の媒質中のクーロン散乱の影響を極力抑える事にした。また電子パルス幅が着目する波長より長い場合、チェレンコフ光はインコヒーレントになることから、電子線形加速器での速度圧縮法によって約100フェムト秒の電子パルスを生成し、テラヘルツ領域のチェレンコフ光を用いる事とした。 ガラス等の屈折率が大きい媒質を用いた場合、チェレンコフ光のリングの開き角度が大きくなり、全リングを真空窓から取り出す事ができないが、屈折率が1.05のエアロゲルでは光角度が18°程度と小さいために、取り出し窓とラジエータの距離を短くすればリング全体を大気中に取り出すことができる。本研究ではラジエータと電子ビームを通過させるがチェレンコフ光を反射するホローミラーをコンパクトにラダーに取り付けた標的真空槽を開発して、電子光理学研究センターの試験加速器に設置した。試験的なビーム実験でリング状のチェレンコフ光を観測することができ、蛍光パネルで測定したチェレンコフリングの大きさや幅は理論的に予想される値と良く一致した。電子パルス圧縮についても、コヒーレント放射のスペクトルから150フェムト秒程度に圧縮できたと考えることができ、今後の偏光操作実験の緩急が概ね構築できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ラジエータ、ホローミラーおよび電子ビーム調整用の蛍光板を装着したラダーを直線導入器を用いて真空中で移動すことができる標的真空槽システムを開発し、これが正しく機能することを確認した。またこれを用いて実際にチェレンコフ放射の全周リングを観測する事ができた。遷移放射ではあるが極短パルス電子ビームが放出するコヒーレントテラヘルツ放射の生成に成功した。コヒーレント放射スペクトルは3THz付近まで延びており、ガウス形の電子パルスを仮定すると、150フェムト秒(標準偏差)という極めて短い時間幅の電子パルスが生成されたと考えられる。以上のような実験の進捗に鑑みて、おおむね順調に研究が進んでいるとみなすことができる。
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Strategy for Future Research Activity |
チェレンコフ光のコヒーレント放射測定はパイロ検出器を用いて行うが、z-偏光の検出はできない。テラヘルツ領域では直線偏光以外の偏光を正確に測定する事は用意ではないことから、可視域での偏光測定を手始めに行う予定である。電子ビームのエミッタンスは約100nmradであることから、可視域でもほぼ回折限界にあることから、チェレンコフ光は空間コヒーレンスが高く、時間コヒーレンスは100μm以上の長波長領域で高いと予想される。可視ではz-偏光が生成しないと考えられが、チェレンコフリングの集光光学系の試験では可視域で行うことが出来る。この光学系では波面を崩さず集光するように内側に反射面を持つアキシコンミラーが必要である。このようなミラーはカタログ製品に存在しないので、今後の研究推進の第一段階として試作品を光学メーカーと議論して製作する。満足する集光性能が確認された後、z-偏光生成実験に進む予定である。
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Causes of Carryover |
今年度前半はz-偏光生成に向けた理論計算を中心として研究活動を行ったため、予定より研究経費が少額であった。後半に実験装置に設置した標的真空槽は、多目的利用が可能なことから他の研究資金で製作した。そのためこれに当初充てる予定の経費分を次年度に持ち越すこととした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
理論計算の結果、チェレンコフ光集光系が極めて重要であることが分かり、当初レンズ系で考えていた集光光学系は特殊な内側アキシコン(円錐)ミラーが必要であることが明らかになった。この製作に約80万円が必要であるため、繰越額を充てることにする。
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