2015 Fiscal Year Research-status Report
NEMS用人工材料の設計指針としてナノ動摩擦によるエネルギー散逸の予測法の開拓
Project/Area Number |
15K13419
|
Research Institution | Kanazawa Institute of Technology |
Principal Investigator |
林 啓治 金沢工業大学, 工学部, 教授 (30281455)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 計算物理 / メゾスコピック系 / ナノマシン / トライボロジー / 表面・界面物性 |
Outline of Annual Research Achievements |
ナノ電子機械(Nano-ElectroMechanical Systems)の使用時に摺動界面で起こる、【ⅰ】NEMSのパーツ同士が原子スケールに比べ広い面で接して常に擦れ、既に熱を持っている摺動部においてなお持続的に摩擦熱が発生し、かつ、【ⅱ】磨耗を伴わない弾性接触条件下の、動摩擦現象(以下では“ナノ動摩擦現象”と呼ぶ)について、組織的に、法則性を洗い出し、NEMS用人工材料の開発・設計指針として整備することを、研究代表者は目指している。このプロジェクトを、実験に先立って先見的に分子シミュレーションを役立てる具体例としたい。 ナノ動摩擦現象に普遍的な特徴として、滑り速度に閾値が存在し、滑り速度が閾値を超えるとナノ動摩擦力したがってエネルギー散逸レートが飛躍的に増大する。結晶同士を滑らせた際に、位相整合条件を満たすモードの格子振動が共鳴励起され、この共鳴励起をきっかけとして、原子間相互作用の非線形性を介したエネルギー移動により、様々なモードの格子振動のインコヒーレントな励起、そして、フォノンの熱平衡分布へ至る。以上のことを、この研究プロジェクトで明らかにしてきた。 このプロジェクトの一環として、当該研究では、ナノ動摩擦現象について、フォノン励起を介したエネルギー散逸のレートを予測する手法の開発を進めている。或る速度で滑らせた際に、共鳴条件を満たす位相整合フォノンモードが複数種類(縦モードや横モード、あるいは、これらが混成したモードなど)存在する場合、エネルギー散逸レートの増大には、それぞれのモードの励起をきっかけとした損失パスの寄与がある。 平成27年度は、それぞれの種類の位相整合フォノンモードについて、共鳴励起の直接的な寄与を、単離する手法を開発した。この手法により、閾値近傍の滑り速度領域でエネルギー散逸レートの増大に関与する位相整合フォノンモードを明確にできた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ナノアクチュエータ等が使用される、閾値より遅い滑り速度領域での、摩擦抵抗の滑り速度依存性は、閾値におけるナノ動摩擦力の立ち上がりの裾野(tail)に他ならない。このことから、当該研究で目的とするエネルギー散逸レートの予測法の開発には、閾特性の正確な把握が不可欠である。さて、摺動界面で相接する結晶の格子定数の大小関係に応じて、閾現象に寄与するのが位相整合条件を満たすどの種類のphononモードかが異なり、そのため、閾値が食い違う。 平成27年度の「交付申請書」には、「平成27年度の研究実施計画」として、以下のことを記した。 MD法によるシミュレーション解析をもとに、“位相整合条件”を満たすノーマルphononモードが複数種あるうちで、どんな種類のものが“閾現象”に寄与するのか、理由を含め、次の二通りのアプローチ《Ⅰ》《Ⅱ》によって明確にする。 アプローチ《Ⅰ》:摺動界面近傍の原子について、運動の相関解析により、熱的揺らぎに埋もれた空間的・時間的コヒーレンスを抽出し可視化する。 アプローチ《Ⅱ》:摺動界面に垂直な方向の原子積層層数を系統的に振り、まず、位相整合モードの数が少ない積層層数の少ない場合について、種類を明確にする。その上で、積層層数を順次増やして、関与する位相整合モードの対応づけを行い、種類について知見を得る。 平成27年度に、それぞれの種類の位相整合フォノンモードについて共鳴励起の直接的な寄与を単離する手法を開発し、この手法によって閾値近傍の滑り速度領域でエネルギー散逸レートの増大に関与する位相整合フォノンモードを明確にできたので、‘当該研究はおおむね順調に進展している’と判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
「現在までの進捗状況」欄に記したアプローチ《Ⅱ》では、平成27年度まで進めてきた取り組みよりも、圧倒的に多くの実験条件で、いっそう精密なシミュレーション解析をこなす必要がある。現有の計算機環境により現実的な時間で成果に結びつけることは困難なことから、貴助成金によって計算機環境を拡充し、能率的に研究を進めることで、これを可能にする。 また、単結晶同士を滑らせた際のナノ動摩擦に関し平成27年度に得た成果を踏まえ、平成28年度は、摺動界面での滑り方向に沿って結晶表面が長周期構造を有する場合のナノ動摩擦現象について、法則性を洗い出し、閾特性の予測を可能にする。また、これらのナノ動摩擦法則の原子論的由来について、「空間並進対称性の低下により、励起され得るフォノンモードの空間選択則が緩和される」ことを拠り所として、理論的基礎づけを行う。
|
Causes of Carryover |
当該研究にコストパフォーマンスの観点からより適したCPU等が平成27年度末に発表され、それを搭載したワークステーション クラスタ エレメントの受注・納品が平成28年度初頭になるとの情報があったため、当初は平成28年度に予定していた研究内容のうち理論研究および新規設備なしで行えるシミュレーション研究を前倒しして平成27年度に進めた。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度に入り次第、ワークステーション クラスタ エレメントのメーカーおよび機種を選定し、貴助成金によって購入する。これを用いて、「今後の研究の推進方策」欄に記した方針で、研究を進める。
|