2015 Fiscal Year Research-status Report
離散曲面論の構築による物質の機能ー構造相関の幾何学的記述
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15K13432
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
小谷 元子 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (50230024)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 離散幾何学 / スペクトル幾何 / 物性物理 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、離散的な対象であるグラフに対する「曲面論」を展開することである。与えられた滑らかな曲面を離散化し、離散的なデータを用いて幾何学的量を計算する研究が最近活発に行われている。本研究では、前提となる滑らかな曲面がない場合、すなわち2次元・3次元空間のなかにグラフが与えられたときに、直接に「曲面」の幾何学量をとりだすため、曲面論の離散版にあたる「離散曲面論」を構築することを目指している。 ガウス写像が定義できるグラフのクラスを特定し、ガウス写像に注目することで面積の変分公式を求めた。これにより、「離散極小曲面」「離散平均曲率一定曲面」を定義した。これらの幾何学量と実際の物質の内的歪みや外的歪みとの相関、スペクトル量と電子状態の相関などを、比較する手法を開発した。これらを論文にまとめた。 平成27年度は、本研究の全体を見通し、世界動向の調査とそのなかで期待できる方向性を特定するため調和写像を用いた相分離のパターン形成の先駆者であるオーストラリア国立大学のStephen Hyde氏、極小曲面や平均曲率一定曲面の可視化の第一人者であるベルリン自由大学のKonrad Polthier氏を招聘し、離散曲面論と調和写像に関する研究討論を行った。 また10月にdisorder系物質の数理的研究を先導するリヨン大学のJohannes Kellendonk氏、ジョージア工科大学のJean Bellissard氏、プラハ大学のPavel Exner氏を招聘しスペクトル解析に関する国際研究集会を行った。これらをもとに、連携研究者の名古屋大学内藤久資氏と毎月打合せを行い、課題の方向性を特定した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定どおり、離散曲面論を定式化し、三岐グラフの曲率・平均曲率を定義し面積変分との関係を明らかにした。また、三岐グラフの細分により連続曲面への収束を論じる方向性が見出した。これらを論文にまとめ、国内外で成果発表を行うとともに、さらなる発展のための情報交換・研究討論を国内外の研究者と行った。その結果、発展の方向や具体的な指針が明確になった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、27年度の実績をもとに、より具体的に問題の解決に当たる。国内・海外の関連研究集会に参加し、情報収集を行うとともに成果を発表する。フランス、インド、中国、オーストラリア、韓国、香港、インドネシアを訪問する予定である。また、非可換幾何学と数理物理の国際研究集会を開催し、サーベイレクチャーを行うSorin Popaをはじめとするこの領域の第一人研究者を招聘する。若手研究者も交えて、数理物理の課題とその解決に有効な数理手法を検討する。 引き続き連携研究者の名古屋大学内藤久資氏と毎月打合せを行い、27年度に特定した確定方向にもとづいて、問題の解決にあたる。計算機を利用し、理論の実証と可視化を図り、実験物質科学者との対話をはかりフィールドバックをかける。27年度に方針を見出した離散曲面論の収束に関する理論を構築し、離散極小曲面のassociate family の定義と収束理論の関連を追及する。連続極小曲面のassociate familyは、相分離面の環境変化に基づくマクロな転移現象の数理モデルと考えられていることから、連続なassociate familyと対応する離散極小曲面列の収束理論を構築することにより、物質の相転移が起こる際のミクロ構造の変形についての数学理論を展開できる可能性がある。 これについて、数学面では曲面論・離散曲面論、物質面では数理物理、応用物理学、化学工学などの研究者との情報交換を行い、物性によりそった数学研究を推進する。
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Causes of Carryover |
次年度使用額は、今年度の研究を効率的に推進したことに伴い発生した未使用額である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度請求額とあわせ、次年度に計画して研究の遂行に使用する予定である。
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