2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K13441
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
須川 敏幸 東北大学, 情報科学研究科, 教授 (30235858)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 錐計量 / シュワルツ微分 / タイヒミュラー空間 / フックス群 / 双曲計量 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究内容そのものについてはまだ研究実績と呼べるものは得られていないが,いくつか既に興味深い考察は行っており,その一部については以下の「現在までの進捗状況」において述べられている.また,これに関連して,次のような研究を行い,その一部については研究集会において発表を行った. (1) 球面内の部分領域が球面幾何に関して凸であるための双曲計量による特徴付けを与えた. これについては現在,論文を執筆中であるが,関連する一様完全集合に関する結果と合わせて,2015年5月にUniversity of Cincinnatiにおいて講演発表を行い,アイデアの一部を述べた. (2) 張坦然氏と共同でn点穴あき球面の双曲距離とリプシッツ同値な距離を具体的に構成した.さらに,リプシッツ定数については,点の位置関係によるので一様には取れないが,点の位置関係から決まるある種の量を提案し,その量にのみ依存する定数で評価できることを示した.これについては,現在も研究を進めており,並行して論文を準備中である.それまで得られていた部分的な結果を2015年8月に九州産業大学で行われた第23回有限無限次元複素解析国際会議において発表した. 以上のほか,2016年3月に筑波大学において行われた日本数学会年会において,企画特別講演の形で「シュワルツ微分の幾何と解析」という講演を行い,シュワルツ微分に関する歴史や古典的な結果を紹介するとともに,Bers埋め込みなど,そのタイヒミュラー空間への応用について概説した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は新たなタイヒミュラー空間を構築するための基礎的な研究を主に行った.与えられた錐特異性を持つ双曲計量の構成のためには,双曲平面内に適当な双曲多角形で辺の対に貼り合わせ変換(pairing transformation)が与えられているようなもの(ある意味で,一意化する一般化されたフックス群の基本領域に対応する)を考えればよい.そのような図形の本質的な自由度が目指すタイヒミュラー空間の次元と考えられる.また,このような空間の複素構造を捉えるためには,Bers埋め込みにならって,上半平面から“基本領域”への等角写像のシュワルツ微分を考え,そのようなシュワルツ微分のなす集合が有界領域をなすような複素バナッハ空間の構築を目指した.モデルとなる複素バナッハ空間は誰でも思いつく自然なものであるが,タイヒミュラー空間の適切なモデルやフックス群の適切な拡張については,まだ未知の部分が多くこれからさらに研究しなければならない. このような錐特異性を持つ双曲計量のモジュライ空間を構成することはやや難しいので,より単純な錐特異性を持つ平坦計量(局所ユークリッド計量)についても考察を行った.これについては,“基本領域”は通常の多角形でよいので,シュワルツ・クリストッフェルの公式で等角写像を記述することができ,シュワルツ微分を取らなくても,前シュワルツ微分だけで十分である.この場合は単純ではあるが,古典的な場合は激しく退化してしまい,これまでは自明としてあまり深く研究されてこなかったケースである.よって,これについてもより深く研究する必要があり,今後も検討することとした.
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Strategy for Future Research Activity |
上でも述べたように,まだタイヒミュラー空間を明示的に構成するまでには至っていない.そのためには,まず関連する最新の結果や知見を取り入れ,これまで何が知られていて,何が分かっていないかを整理する.その上で,錐特異性を持つ双曲計量や平坦計量のモジュライ空間を適切に定義し,その“Bers埋め込み”を構築したい.そのためには,上半平面上にベルトラミ微分を与えて,同時一意化の特別な場合として対応するフックス群の擬等角変形として埋め込みを実現するというBersのオリジナルのアイデアは,群が離散的でなくなってしまうためもはやそのままでは使えない.そこで,リーマン面に落とした上で実質的に同じ構成を行い,それを拡張する形でBers埋め込みに相当する写像を構築することを目指す.
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Causes of Carryover |
予定していたコンピュータ関連機器を購入しなかったため,次年度に残額を回すこととした.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
使用していたノートブックコンピュータが不調を来したため,新しいコンピュータ環境を整える予定である.
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