2015 Fiscal Year Research-status Report
ブラックホール近傍のゆがんだ時空の測定を目指した星の高精度視線速度測定法の研究
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15K13463
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Research Institution | Miyagi University of Education |
Principal Investigator |
西山 正吾 宮城教育大学, 教育学部, 准教授 (20377948)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 天文学 / ブラックホール / 赤外線 / 分光 / 相対性理論 / 星 / ドップラー効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、銀河系の中心にある超大質量ブラックホールSgr A*を周回する星S2の視線速度測定方法の確立である。視線速度の変化が得られると、そこからブラックホール近傍の時空情報をとりだすことができる。視線速度を精密に測定するためには、近赤外線の高分散分光観測が必要である。しかしS2に対してこの観測手法は、まだ試みられたことがない。また、星が大量に存在する領域であるため、他の天体のスペクトルが混入する可能性もある。このような困難な状況における、視線速度測定に最適な観測、データ解析方法の確立が本研究の目的である。 この天体を観測するためには、8m級の望遠鏡を使用する必要がある。2014年に引き続き、2015年にもすばる望遠鏡の観測時間を取得できた。また2016年にも観測が決まっている。すでに取得したデータを用いたデータ解析も行っている。これらの研究の計画や意義、進捗状況について、近赤外高分散分光研究会や日本天文学会、国立天文台や東北大学の談話会において報告を行った。 また、本計画に寄与する新しい装置として、近赤外線高分散分光器IRDの開発が進んでいる。レーザーコムを波長較正装置として使用することで、視線速度測定精度が格段に向上する。この装置の開発状況について、日本天文学会で報告を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2014年に続き、2015年にも観測時間を取得し、すばる望遠鏡による観測を行った。2015年には2晩の観測時間があったものの、1晩は天候に恵まれず、観測することができなかった。よって2015年のデータの質は必ずしも満足できるものではない。しかし、2014年から毎年データを取得することができている。また2016年には2回の観測機会を得ることができた。このように、本研究に最も大切な観測データの蓄積は確実に進んでいる。 データ解析の検討も進めている。2014年には、1.6ミクロン帯(Hバンド)と2.2ミクロン帯(Kバンド)での高分散分光観測を行った。しかし観測データを見てみると、Hバンドのデータのシグナルノイズ比が低かった。星間減光により、予想よりも長く観測時間が必要になることが分かった。そのため、2015年以降の観測ではKバンドに時間を集中することにした。Kバンドの観測時間が長くなることで、Kバンドのスペクトルのシグナルノイズ比も向上させることができる。 観測時、S2以外の星のスペクトルも同時に取得することができる。これらの天体のスペクトルを調べると、天体の金属量についての情報が得られることが分かった。ブラックホール近傍にある星が、銀河のどのような進化段階で形成されたのか、という興味深い疑問に答えることができるデータである。この研究についても今後進めていく。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き新しいデータを得ながら、解析手法の検討を進めていく。2016年には5月と7月に計2回、観測の機会を得ることができた。それぞれに対し半夜を2回、合計約20時間の観測時間を使うことができる。 データ解析を一通り行い、天体のスペクトルが得られるようになった。しかし星の視線速度を精度よく測定するための検討はまだ始まったばかりである。現状では、大気のOH分子による輝線を波長較正に使っている。まだこれが最適な方法なのかは分からない。またスペクトルのシグナルノイズ比は高くない。このような場合、吸収線等のドップラー効果を単独で測定すればいいのか、それともスペクトル全体をモデルと比較して測定すればいいのか、といった検討項目もある。これらの検討を平成28年度以降に進めていく。 また本研究では、S2だけでなく、ブラックホール近傍にある他の星の高分散分光観測も行っている。これらはS2よりは遠くにあり、その周回周期が長いため、視線速度の変化はまだ測定されていない。これまでの観測機会に、ブラックホール近傍の複数の星のデータをすでに取得している。その中には、時間をあけて2014年と2015年の2回、観測されたものもある。これらの星の視線速度もモニターし、ブラックホールの重力による影響を検証する。
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Causes of Carryover |
観測期間が予想より短かったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度旅費として使用予定。
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Research Products
(8 results)