2016 Fiscal Year Research-status Report
新規の高屈折率媒体を用いた暗黒物質検出器の開発・研究
Project/Area Number |
15K13480
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
岸本 康宏 東京大学, 宇宙線研究所, 准教授 (30374911)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 暗黒物質 / 結晶シンチレータ / 高屈折率 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度までの研究では,NaI(Tl)結晶シンチレータ上に高屈折率の薄膜を形成を実証した一方,その成膜によって,白い斑点が見られた.この斑点は,シンチレータ光の散乱の因子となるため,今年度は潮解性の少ないCsI(Tl)結晶に変えて,製膜を行った.白斑のない製膜に成功したが,製膜にバラつきが生じてため,製膜原料となる液の配合を調整して,均一な膜の生成を目指した.残念ながら,まだ,均一な製膜に成功していない.製膜時の問題点として,結晶軸が異なると,その表面での濡れが異なり,従って,製膜がうまくいく面とうまくいかない面が生じていることが分かっている.また,問題点として,この不均一性が原因で,膜にピンホールが残っており,このピンホールを通じて結晶が外気中の水蒸気と反応,潮解し,長期間大気中に放置すると,結晶表面が白濁することも判明した.このことは,製膜によって結晶を保護し,従って,結晶シンチレータの取り扱いを容易にする,という本研究の1つも目的も未達であることを意味する. 結晶は,それに特有の結晶面を持っており,面毎に液を変える等の対策が必要であると考えられる. このような状況を受け,方向を転じ,この製膜の研究と同時に,高屈折率の樹脂に結晶をポッティングする研究も,企業と協力して行った.現状の樹脂では,n~1.76程度が最大で, NaI(Tl), CsI(Eu)などの一般によく使われているシンチレータの屈折率よりも小さい.しかし,シンチレータの保護と大型化と言う観点から,この樹脂へのポッティングを試みた.その結果,樹脂の形成後,CsI結晶の間に隙間が生じることが分かった.これは,樹脂成型時に熱が生じるが,この熱膨張によるひずみが原因と考えられた.一方で,ポッティングでは,シンチレータを完全に外界から遮断し,容易な取扱いが可能であることも実証され,一定の進歩があった.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では,協力企業の研究者自身が驚くほどの屈折率(n=2を超える)の製膜(50~80 um)を実証した点では,著しい進展であった.しかし,その薄膜を結晶表面に実装する上では,課題が生じている.1つは,加水分解反応中の水であり,2つ目は製膜の非均一性である.本研究では,NaI(Tl)やCsI(Eu), CsI(Tl)と言った,頻繁に使用される結晶を用いて開発・研究を行ってきたが,これら結晶では劈開面があり,劈開面とその他の面の双方の上へ均一に製膜するための条件出しが終わっていない.また,樹脂へのポッティングでは,熱収縮によって結晶と樹脂の間が剥離することが分かった 仮に,この非均一性または結晶と樹脂間の剥離を解決できたとすると,これら結晶のもつ弱点である潮解性を克服できる可能性が拓かれる.現状は,その一歩手前で試行錯誤している状況で,改善の余地が大いにあると考えている. 具体的には,更なる調薬,温度の調整など,課題の克服に向けた方策が幾つか考えられ,それを試行することで,問題解決の糸口がつかめると考えている.
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究は,将来の暗黒物質探索に用いる,大型で均一な結晶シンチレータの作成を念頭に研究を行ってきた.この目的のため,屈折率を調整し,シンチレーション光の屈折を制御することが重要である. 本研究では,この目的のために,これまで述べてきたように, 2つの方向性で研究を行ってきた.1つは,結晶上に高屈折の薄膜を製膜する方向であり,もう1つは,高屈折率樹脂に結晶をポッティングする方向である. 前者の方法では,製膜の非均一性が,後者では,熱膨張による剥離が問題である. 前者の製膜では,結晶面による「濡れ」の差が原因であると考えられている.従って,今後は,(1)面毎に液を変える.あるいは,(2)複数回の製膜によって,面の差を吸収するという方法を試すつもりである.均一な製膜が成功した後には,その次のステップとして,その表面に,全反射を防ぐ,多層膜コーティングに発展させたいと考えている.計算では,3~5層の多層化が必要であり,現実的には,多層化する際に,膜が剥離する,あるいは反応熱で屈折率が変化する,と言った課題を解決する必要がある. 後者の剥離対策では,結晶の冷却が,樹脂に比べて急速に進むことが原因と考えられる.樹脂の固化反応をゆっくりすることが,打開策と考えられる.樹脂化反応には熱が必要であり.そのバランスを見極めて,樹脂中に結晶をポッティングするつもりである.別の方向性としては,結晶配列を密にし,樹脂の体積を小さくすることも1案と考えている. また,この樹脂は表面にナノ構造パターンを形成できるとの情報も得た.この方向性での研究は行ったおらず,その可能性についても模索したいと考えている.
|
Causes of Carryover |
NaI(Tl)シンチレータに製膜した場合,表面に白い斑点ができることが判明した.この白斑は,加水分解で生じる水によってTlが遊離することが原因と推測されたが,この原因究明に多くの時間を要した.また,CsI(Tl)シンチレータに製膜した場合,膜が非均一となり,長期間の保管後に結晶表面が白濁することも新たに判明した.このように,経時的変化をみる必要性が出たため,当初の予想を超えて,研究を遂行することが必要となった. また,この薄膜の研究と並行して,高屈折率の樹脂の中に,シンチレータ結晶をポッティングする方法を試みた.この方法でも,樹脂と結晶の間に乖離が生じることが分かった.そのため,研究機関を延長し,この対策にあたることが,本研究の最終目的を達成するために必要と考えられた.特に,この樹脂状には,ナノ構造パターンを構築することが可能との情報を得ており,その方向性の研究も進展が期待される.
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
これまで述べてきたように, 2つの方向性で研究を行ってきた.1つは,結晶上に高屈折の薄膜を製膜する方向であり,もう1つは,高屈折率樹脂に結晶をポッティングする方向である. いずれの方向の研究でも,膜の非均一,あるいは樹脂と結晶の乖離といった問題に取り組む必要がある.このためには.成分を変えて成膜,あるいは樹脂形成の出来を調査する必要がある.従って,試薬が必要であり,そのために研究費を使用する.また,協力会社の研究者との綿密な相談が必要であり,そのための旅費,通信費が必要である.
|