2016 Fiscal Year Research-status Report
New magnetooptical effect in the hard x-ray region for magnetic microscopy
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15K13508
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Research Institution | National Institutes for Quantum and Radiological Science and Technology |
Principal Investigator |
稲見 俊哉 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 関西光科学研究所 放射光科学研究センター, グループリーダー(定常) (30354989)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 磁気円二色性 / 反転比 / K吸収端 / X線発光分光 |
Outline of Annual Research Achievements |
強磁性体内部での磁区分布、さらには内部磁区の各々の磁化反転過程については、永久磁石の保磁力向上や電磁鋼板の低鉄損化など応用研究に深く関わっているにもかかわらず、適切な測定手法が無いため意外にも詳しく調べられていない領域である。本萌芽研究では、強磁性体の磁区観察手法として確立されているX線磁気円二色性(XMCD)顕微分光法についてその原理から見直すことで、侵入長の長い硬X線領域で反転比の大きい新しい二色性現象を提唱し、さらに実現可能、そして実材料へ適用可能な測定法であることを実験的に示すことを目的としている。 平成27年度は発光円二色性現象の確認の前段階として、鉄の蛍光X線スペクトルを観測し、十分な観測強度があることを確認した。平成28年度は、これに続いて蛍光X線の円偏光度の測定を行い、発光X線に磁気円二色性があることを確認することに成功した。具体的な実験内容は以下の通りである。入射X線のエネルギーを鉄K吸収端(7.13keV)にし、スリットで約100ミクロン角に整形し、鉄単結晶試料に照射した。蛍光X線はスリットで約75ミクロン角に制限し、ダイヤモンド移相子を用いて円偏光と直線偏光の相互変換を行い、さらにこれをゲルマニウム単結晶の平板アナライザで分光するとともに直線偏光解析を行った。鉄Kα1蛍光スペクトルにおいて円偏光度は最大約12%に達し、散乱角等の補正を施すと約18%という大きな値になった。また、試料の磁化を反転させると円偏光度も反転することを確認した。これらの結果から、確かに侵入長の長い硬X線領域で反転比の大きい新しい磁気円二色性現象を発見することに成功したと言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
変更後の計画においては、平成28年度には発光磁気円二色性現象の確認と電磁鋼板を用いた磁気ドメイン観測の演示実験までを行うこととしていた。28年度前期には、上述した通り計画に従って発光磁気円二色性現象の確認を行うことができた。28年度後期には、前期に残していた磁場方位の確認など補足的な実験を行い、続いてドメイン観察に進む予定であったが、測定データの統計誤差が思ったよりも大きかったため、測定データの質の向上を図ることを優先し、磁気ドメイン観察の演示実験は取りやめた。 当初の計画(発光磁気円二色性の観測、平行化光学系の導入、磁気ドメイン観察)と比べると、達成できたのは発光磁気円二色性の観測までであり、40%程度の達成度となるかもしれない。しかしながら、本萌芽研究においては、やはり、これまで存在すら予想されていなかった発光磁気円二色性の観測が最重要課題であり、しかも、非常に大きな磁気効果を示すという実用研究にとって重要な特性を持っていたこともあり、そういう視点からは70%程度の達成度と考える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は新たな研究や実験は行わない予定である。ここまで得られた結果は平成28年度末に発表論文にまとめ、投稿済みである。平成29年度は、この投稿論文の修正や出版手続きを行うことと国内学会での成果発表が主な活動内容となる。残予算はこの出版費用や学会参加費および旅費に使用する予定である。
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Causes of Carryover |
本研究は、強磁性体の磁区観察手法として確立しているX線磁気円二色性測定の欠点を克服するため硬X線領域で反転比の大きい新たな磁気光学効果を探索するものである。研究の進捗状況としてはやや遅れて進展したものの、平成28年度前半で磁気光学効果を実験的に確認し、その後解析と論文製作を行い、28年度末には出版社に投稿するところまで実施できた。その後の出版手続きを考慮すると28年度内に出版費を払い込むことは困難と予想されたので、延長申請を行い、次年度使用額が生じることとなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
前述したように、平成29年度は新たな研究や実験は行わない。上述したように、得られた結果は平成28年度末に発表論文にまとめ、投稿済みである。平成29年度は、この投稿論文の修正や出版手続きを行うことと国内学会での成果発表が主な活動内容となる。残予算はこの出版費用や学会参加費および旅費に使用する予定である。
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