2015 Fiscal Year Research-status Report
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15K13514
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
芝内 孝禎 東京大学, 新領域創成科学研究科, 教授 (00251356)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 時間反転対称性 / カイラリティ / ドメイン構造 / 非従来型超伝導 / 対称性の破れ / ウラン化合物 / 重い電子系 / 鉄系超伝導 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では時間反転対称性の破れたカイラル超伝導に特徴的な性質を実験的に明らかにすることにより、複素数の秩序パラメータを持つ非従来型超伝導を検証することを目的としている。特に、時間反転対称性の破れの検証は、今までミューオンスピン回転およびカー効果による実験に限られていたが、いずれもカイラルドメインの直接観測には至っておらず、他の方法によるさらなる検証が重要な課題となっている。 今年度は、カイラルドメイン直接観測のための走査型SQUID顕微鏡の立ち上げについて、システムの中心部分の構築を行った。ヘリウム温度におけるSQUID素子の最適化をおこない、また常温での走査の動作確認が完了しており、今後低温での実際の実験に移る。 さらに、カイラル超伝導の秩序パラメータに期待される超伝導ギャップのノード構造の決定を合わせて行うために、精密磁場侵入長測定装置の改良を行った。具体的には、希釈冷凍機に設置したトンネルダイオード回路の冷却部分の改良を行うことにより、今まで試料導入時に100ミリケルビン程度に限られていた最低温度を、50ミリケルビン以下に更新することに成功した。ノード構造を決定するためには、できるだけ低温における磁場侵入長の温度依存性が重要であるため、この改良装置を用いることにより、ウラン化合物をはじめとしたカイラル超伝導候補物質について測定を開始する予定である。 また、共同研究による走査型トンネル顕微鏡測定により、鉄系超伝導体FeSeの双晶境界近傍においてギャップ構造におけるノードの消失を観測し、この結果からカイラル超伝導が誘起された可能性を提唱した。この結果を受けて、FeSeについてもカイラル超伝導に伴う異常の観測を今後行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず、カイラルドメイン直接観測のための走査型SQUID顕微鏡については、SQUID素子の最適化を行い、素子として十分な性能を得るに至っている。また、走査の動作確認も室温については完了しており、実際に微小ホール素子を装着して室温での試料上の磁場分布測定も可能となっている。現在、希釈冷凍機に装着するテストを行っているところであり、来年度極低温での測定が可能になると考えている。 次に、磁場侵入長測定については、カイラル超伝導体URu2Si2のヘリウム3を用いた0.4ケルビンまでの磁場侵入長測定が完了しているが、カイラル超伝導に期待される超伝導ギャップのノード構造を決定するには、より低温のデータが必要であることが明らかとなった。このために、50ミリケルビン以下までの磁場侵入長測定が可能とする装置改良を行った。現在、50ミリケルビン以下の温度までの冷却を確認しており、50ミリケルビン以下の温度計校正を行っているところである。これまでに、この装置を用いて、重い電子系超伝導体CeCu2Si2の磁場侵入長測定を行い、今までd波と考えられていた超伝導状態で期待される温度依存性とは全く異なる振る舞いが観測され、超伝導ギャップにノードを持たないs波超伝導体であることが明らかとなった。この結果は現在までの主流な考え方であるスピン揺らぎを媒介とした非従来型超伝導に再考を促す結果である。 さらに、鉄系超伝導体FeSeの走査型トンネル分光測定において、ノードの存在を意味するV型のコンダクタンス曲線が得られたが、双晶境界近傍でV型からU型に変化が観測され、時間反転対称性の破れによるノードの消失を示唆する結果を得た。これは鉄系超伝導体においてもカイラル超伝導状態が実現している可能性を実験的に初めて示したものである。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度は、まず走査型SQUID顕微鏡の極低温動作を実現し、カイラル超伝導候補物質の測定を行う。物質としては、ウラン系重い電子系超伝導体であるURu2Si2や、今年度カイラル超伝導の可能性が明らかになった鉄系超伝導体FeSeに焦点を当て、単結晶試料表面上の磁場分布測定を超伝導転移温度以下で行い、自発的な磁場が発生するかどうか、またその磁場がどのように分布してカイラルドメインを組んでいるかどうかを明らかにする。FeSeについては、双晶境界近傍でのみ時間反転対称性の破れが示唆されているため、本研究の走査型SQUID顕微鏡測定が非常に重要になると考えられる。 次に磁場侵入長測定により、URu2Si2のギャップ構造の決定を行う。この系で示唆されているカイラル超伝導状態では、c軸方向に点状のポイントノードを持つカイラルd波の構造が期待されているが、同時にab方向に線状のラインノードの存在の有無が明らかになっていない。また、ごく最近の核磁気共鳴の研究では、スピン帯磁率の減少が見られておらず、スピン三重項である可能性も考える必要が出てきている。この場合、カイラルp波の超伝導構造も視野に入れる必要がある。これらの可能性を絞り込むために、ab面内およびc軸方向の磁場侵入長温度依存性を50ミリケルビンという極低温領域まで測定を行い、ギャップ構造を決定することにより、この系の超伝導秩序パラメータの対称性を議論し、カイラル超伝導の検証を行う。
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Remarks |
研究内容の紹介
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Research Products
(9 results)
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[Journal Article] Evidence for Time-Reversal Symmetry Breaking of the Superconducting State near Twin-Boundary Interfaces in FeSe Revealed by Scanning Tunneling Spectroscopy2015
Author(s)
T. Watashige, Y. Tsutsumi, T. Hanaguri, Y. Kohsaka, S. Kasahara, A. Furusaki, M. Sigrist, C. Meingast, T. Wolf, H. v. Loehneysen, T. Shibauchi, and Y. Matsuda
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Journal Title
Phys. Rev. X
Volume: 5
Pages: 031022
DOI
Peer Reviewed / Int'l Joint Research
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[Presentation] 極低温磁場侵入長測定と不純物効果から見た重い電子系超伝導体CeCu2Si2のギャップ構造2016
Author(s)
竹中崇了, 水上雄太, 新井佑基, J. Wilcox, C. Putzke, A. Carrington, S. Seiro, H. S. Jeevan, C. Geibel, M. Konczykowski, 常盤欣文, 松田祐司, 芝内孝禎
Organizer
日本物理学会 第71回年次大会
Place of Presentation
東北学院大学
Year and Date
2016-03-19 – 2016-03-22
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[Presentation] 走査型SQUID顕微鏡システムの試作と検証2015
Author(s)
下澤雅明, 鈴木喜貴, 杉井かおり, 山下穣, 小山大介, 河端美樹, 河合淳, 笠原成, 松田祐司, 末吉孝充, 水上雄太, 芝内孝禎
Organizer
日本物理学会 2015年秋季大会
Place of Presentation
関西大学
Year and Date
2015-09-16 – 2015-09-19
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