2015 Fiscal Year Research-status Report
渦糸運動の高精度制御・観測法の開発と非平衡科学への適用
Project/Area Number |
15K13516
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
大熊 哲 東京工業大学, 理工学研究科, 教授 (50194105)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 渦糸 / 非平衡ダイナミクス / 動的相転移 / プラスチックフロー / ピニング / 動的秩序化 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は測定を実施するための準備として, アモルファス膜試料の作製と測定系の構築・整備を行った。また電流印加により回転運動および並進運動する渦糸系における予備的測定も開始した。 ・試料作製: 極めて平坦な表面をもつ円錐ガラス基板を準備し, その円錐曲面上にピン止めの弱いアモルファスMoxGe1-x膜を超高真空仕様のrfスパッタリング装置を用いて成膜した。さらに電流端子と複数の微小電圧端子を側線上に真空蒸着することにより, 円錐頂点の周りに半径に反比例する駆動力によって回転駆動可能な渦糸系を準備した。 ・測定系の構築・整備: 高速で運動する渦糸格子を検出するための高周波モードロック測定系の構築を, ほぼ完了した。さらに, 高速フローする渦糸格子の実空間・実時間測定を行うための点接触分光装置の試作も行い, 渦糸運動の有無の検出に成功した。ただし格子の運動を捉える周期信号の検出にはまだ成功していない。 ・予備的測定1: 円錐の側面上で, 頂点の周りに高速回転駆動させた渦糸のダイナミクスを電流電圧特性とモードロック共鳴によって調べた。その結果, これまでのコルビノ円盤では観測されなかった巨視的スケールに亘る格子の回転を観測した。さらに円錐試料と比較対照となる傾斜磁場下の矩形試料のモードロック測定を行い, 駆動方向によらず, 傾斜方向に渦糸格子の1辺が平行となる格子方位を取りやすいことを確認した。 ・予備的測定2: 並行して, 通常の矩形試料による低速域での渦糸運動による非平衡depinning転移の研究も進めた。その結果, 従来の直流駆動力を変数としたdepinning転移だけでなく, 渦糸密度を変数としたdepinning転移の臨界現象を観測することに成功した。さらに交流駆動力に対しても非平衡depinning転移の臨界現象が見られる兆候を観測した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成27年度は, ピン止めの弱い良質なアモルファス膜試料の作製が完了した。特に回転運動渦糸系の研究に関しては, これまでのコルビノ円盤試料では困難であった, 動径方向に複数の電圧端子を有する円錐試料の作製が完了した。測定系の準備では, 高速フローする渦糸格子の実空間・実時間測定を行うための点接触分光装置はまだ製作途上にあり, 渦糸格子の周期運動の検出には至っていないが, 高速駆動された渦糸格子全体の格子性を検出するための高周波モードロック測定系は, 構築がほぼ完了した。そして実際に, 円錐試料に対する予備的測定により, コルビノ円盤試料では見られなかった巨視的スケールに亘る格子の回転運動の兆候を観測した。このことは, 当初の研究目標に掲げた「歪み力のもとでの格子の塑性変形・プラスチックフローの研究」の着実な進展を期待させる。さらに低速域で観測される非平衡depinning転移の研究についても, 臨界現象の普遍性を示唆するような新た知見が得られつつある。 以上の状況から, 当初の計画以上に研究は進展していると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
現在製作途上にある点接触分光装置の構築を引き続き進める。現時点では渦糸運動の有無の検出には成功したものの, 格子の運動を直接的に捉える周期信号の検出にはまだ成功していない。その原因が探針部にあるのか, それとも測定回路にあるのかを明らかにする。並行して, 測定系の構築がほぼ完了した高周波モードロック共鳴装置を円錐超伝導膜試料に駆使して, 円錐曲面上を高速回転駆動された渦糸格子のダイナミクスを調べる。具体的には, 格子の弾性(磁束密度), 駆動力(歪み力), ピン止め力が回転する渦糸格子の秩序の消失-塑性変形・プラスチックフロー-に及ぼす影響を解明する。 一方, 並進駆動系の矩形試料用いて, 低駆動力・低速域で観測されるplastic depinning転移, および交流駆動力による可逆不可逆転移の研究も進める。これらは共に, 渦糸の運動による秩序化が物理的起源となっているが, これらの非平衡相転移の普遍性と特異性を探究していく。
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Causes of Carryover |
・繰越が生じた状況 測定系の構築が一部完了しなかったため, 平成27年度中には低温域での測定が当初予定より進まなかった。このため寒剤代(液体ヘリウム・液体窒素)の支出が大幅に抑制された。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
・平成28年度分予算とあわせた使用計画 平成28年度は, 低温域での測定を長時間にわたって実施する。このため, 平成27年度に支出予定であった寒剤代(液体ヘリウム・液体窒素)をあてる。
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