Project/Area Number |
15K13516
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
大熊 哲 東京工業大学, 理学院, 教授 (50194105)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 渦糸 / 非平衡ダイナミクス / 動的相転移 / プラスチックフロー / 動的融解 / 異方的格子 / 自己組織化 / せん断力 |
Outline of Annual Research Achievements |
より精緻なデータに基づく包括的な知見を得るため研究期間を延長した。これまでに, 印加電流によってコルビノ円盤の中心あるいは円錐の頂点の周りを巨視的せん断力を受けて回転運動する渦糸系, および矩形試料内を微視的せん断力を受けて並進運動する渦糸系を構築し, 以下の成果を得た。 (1)円錐曲面上では, 従来の円盤試料では観測されなかった巨視的スケールに亘る渦糸格子の回転が現れることを, 高周波モードロック共鳴で観測した。この現象を理解するためには, 回転半径に反比例する巨視的せん断力の効果に加え, 傾斜方向に引き伸ばされた格子の異方性の効果が重要であるとの結論に達した。そこでまず傾斜磁場下の矩形試料において, 高速フローする格子の形状と動的融解現象を調べた。その結果, 傾斜方向に伸びた2種類の異方的アブリコソフ格子が存在することを見出し, どちらも格子を構成する長短2種類の辺の短い辺が, 等方的アブリコソフ格子が融解するときの辺に一致するときに融解すること, さらにピン止めによる振動の効果が弱い高速域では準安定な過熱状態が現れることがわかった。異方的格子の融解は固体物理の基本問題であるが, その融解条件の明確な観測は本研究が初めてで, 広い分野へ貢献する成果と考えられる。 (2)乱れた初期配置をもつ矩形試料の渦糸系に一定の駆動振幅dの交流せん断力を印加しサイクル数を増加させると, 渦糸配置が徐々に組織化するランダム組織化が観測された。さらに組織化した終状態とその手前の過渡状態で渦糸配置を凍結させ, その後様々な駆動振幅の交流駆動力で電圧の過渡現象を測定すると, いずれも元のdを読み出せることがわかった。これは無秩序に見える過渡状態の渦糸配置でも, その配置を作るのに用いた駆動振幅dを記憶しているメモリー効果を観測したもので, 渦糸系に限らず広く多粒子系に波及する普遍的現象である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
高速フローする渦糸格子の実空間・実時間測定を行うための点接触分光装置は製作途上にあり, 現時点ではまだ渦糸格子の運動に伴う周期信号の観測には至っていないが, 渦糸フロー状態の検出には成功しており, 今後の展望は見えてきている。一方で, 高周波モードロック共鳴法, および高速の電圧過渡応答測定システムの構築は大きく前進した。実際に, (1)モードロック共鳴法による, 高速駆動された渦糸系の巨視的スケールにおける格子性(運動方向の格子定数)と渦糸密度増大による動的融解現象(格子性の消失)の検出, および(2)電圧の過渡現象測定による, 乱れた初期配置をもつ渦糸系の交流運動に伴う秩序化-動的秩序化・ランダム組織化-の検出が可能となった。これらの測定手法をあわせもつグループは我々が知る限り他にはない。本研究ではこれらの手法を駆使することにより, (1)大きな異方性をもつ固体格子の動的融解条件の初の決定, および(2)ランダム組織化に伴う渦糸配置の変化とメモリー効果の観測という, いずれも普遍性の高い基本的物理現象の知見を得ることに成功し, 成果の一部はそれぞれ出版論文として発表した。さらに, 非平衡ディピニング転移の臨界現象に関する新たな知見も得られはじめている。これらの事実は, 当初の計画以上に研究が進展していることを示している。
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Strategy for Future Research Activity |
・現在製作途上にある点接触分光装置の構築を引き続き進める。これまでに渦糸フローに伴うアンドレーエフ反射信号(微分伝導度)の変化を観測したが, 渦糸格子の運動状態を実時間で捉える高周波の周期信号の検出にはまだ成功していない。その原因を究明するため, これまでの固定探針による点接触分光に加え, 極低温走査トンネル分光顕微鏡をベースとした点接触分光も推進して行く。これにより, 探針の3次元位置を自由に変えた測定も可能となり, 実験の操作性が格段に向上する。合わせて試料作製プロセスにおいて, アモルファスMoxGe1-x膜試料表面の劣化を防ぐ方策を立て, 測定電流(微分伝導度)の信号対ノイズ比の向上を目指す。 ・以前のコルビノ円盤試料の研究で得た, 「半径に反比例する巨視的な歪み力によって回転駆動された渦糸格子リングの運動状態」の実験結果と, 今回の傾斜磁場下の矩形試料における研究で得た, 「並進駆動された異方的渦糸格子の運動状態」の実験結果をもとに, 本研究で見出した「巨視的な歪み力と格子の異方性の両方が存在する円錐側面上で回転駆動された渦糸格子の運動状態」を理解・解明する。この研究により, 格子の弾性(磁束密度), 異方性, 駆動力(歪み力), そしてピン止め力(速度)が, 回転する渦糸格子の秩序の消失―塑性変形・プラスチックフロー・動的融解転移―に及ぼす影響を包括的に明らかにする。 ・一方, 微視的なせん断力のみが存在する矩形試料における並進駆動渦糸系を用いて, 低駆動力・低速域で観測される非平衡プラスチックディピニング転移および交流駆動力による可逆不可逆転移の研究も進める。これらは共に, 運動による秩序化によって起こる非平衡相転移現象である。本研究で得られた, ランダム組織化に伴う渦糸配置の変化に関する知見も合わせて, これらの非平衡相転移の普遍性と特異性を探究していく。
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Causes of Carryover |
本研究のテーマのひとつである, 並進駆動渦糸系におけるランダム組織化現象や非平衡ディピニング転移現象に関しては, 興味深い実験データが得られつつある。すでに本研究で得られた成果の一部は, 日本物理学会や国内研究会, および複数の国際会議における招待講演にて報告を行っている。これらの現象を包括的に理解し, 完結した論文として発表するためには, さらに精緻な測定と再現性を検証する実験が必要となる。そのため, 補助事業期間の1年延長を申請し, 平成29年3月末に延長が認められた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度の研究経費は, 4.2 K以下の低温域における測定のための寒剤代, 点接触分光装置と試料作製のための材料・真空部品費, 測定回路整備のための電子部品等の消耗品費, および論文投稿料に使用する。さらに, 研究情報収集と研究成果発表(日本物理学会秋季大会への出席等)のための国内旅費にも使用する。
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