Outline of Annual Research Achievements |
自然科学や工学における古くからの未解明の重要問題である固体のプラスチックフローや融解現象, あるいは近年様々な多粒子系で報告されている運動による秩序化や非平衡相転移現象を解明・探究するため, 極めて均質で制御性に富んだ2次元多粒子系とみなせる超伝導渦糸系を用いた実験を実施した。特に今後の実験研究の萌芽となる渦糸運動の制御・観測法の開発と多彩な幾何配置をもつ渦糸系の創成を目指した。以下の成果を得た。
(1)傾斜磁場を利用することにより, 通常の固体では実現できない傾斜方向に大きく引き延ばされた異方的渦糸格子の創成に成功した。測定は高周波モードロック共鳴と呼ばれる, 高速駆動された渦糸系の格子性(運動方向の格子定数)と渦糸密度増大による動的融解現象(格子性の消失)を検出できる手法を駆使した。その結果, 長短2種類の辺からなる異方的格子の融解は, 格子形状によらず短い辺の長さだけで決まること, すなわち短い辺の長さが, 等方的(アブリコソフ)格子が融解するときの辺の長さに一致するときに融解することを見出した。
(2)一方, 乱れた初期配置をもつ渦糸系の交流駆動に伴う動的秩序化現象を, 渦糸配置の時間発展という観点から調べた。このため, 2段階の電圧過渡応答測定からなる新たな実験手法を開拓した。その結果, 秩序化に至る途中の渦糸配置は, その配置を作るのに用いた交流駆動振幅の情報を記憶していること, さらに, その過渡状態の渦糸配置は微視的に一様ではなく, 乱れた領域と秩序領域の2相共存状態になっていて, 時間と共に秩序領域の割合が単調に増大するという新規な結果を得た。交流駆動による動的秩序化現象は, コロイド系や我々が渦糸系で見出した可逆不可逆転移と呼ばれる非平衡相転移の素過程であり, さらに自然界に広く見られる普遍的な非平衡現象であることから, 本結果は大きな意義と波及性をもつ。
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