2015 Fiscal Year Research-status Report
高感度(e,3e)分光の開発による導電性有機分子の電子相関の研究
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15K13541
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
山崎 優一 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (00533465)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 電子相関 / 分子軌道 / 波動関数 / 芳香族分子 / 電子分光 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、電子相関運動を直接的に可視化する新規実験手法を開発し、有機半導体材料の基本単位の一つである単純な芳香族分子のπ電子を対象として、電子相関と物性・反応性との関係を明らかにすることを目的とする。そのために、1電子の運動量密度分布を与える(e, 2e)電子運動量分光を、二重電離過程をも対象とする形に発展させ、物質内2電子の運動量二体分布関数を与える高感度(e, 3e)電子運動量分光として開発・確立する。これにより、原子分子物理学における電子状態研究の核心および固体物理学における電子物性の本質に迫る。 平成27年度は、(e, 2e)電子運動量分光の高エネルギー分解能化および電子運動量分布に現れる干渉効果に関する研究を行った。前者については、芳香族分子の二重電離状態を(e, 3e)分光により分離して観測する目的のために、(e, 2e)分光装置のアナライザー部および電子銃の高エネルギー分解能化について検討を行った。その結果、強度に関しては課題を残すものの、従来と比べて桁違いにエネルギー分解能を改善できる示唆を得た。一方、後者に対しては、二酸化炭素分子やエチレン分子のπ軌道を対象に、分子構造(原子核間距離)や分子軌道の位相や広がりといった、分子軌道の三次元的形状の情報を電子運動量分布から抽出することを目的とした。実験の結果、電子運動量分布における干渉パターンから反結合性および結合性π軌道の位相が一目瞭然で視覚的に捉えられることが分かった。こうした干渉効果のユニークな特性を利用することで、電子相関と分子軌道の三次元的形状との関連性を明らかにできると期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究で、芳香族分子の高感度(e, 3e)分光の実現へ向けたエネルギー分解能向上に対する一つの指針、およびπ軌道の三次元的形状に関する基礎的知見を得ることができた。(e, 2e)電子運動量分光の実験および解析の精度を向上させれば、電子運動量分布に表れる干渉パターンからπ軌道の位相のみならず化学結合の効果をも可視化できる可能性があることが分かり、分子軌道形状の精密分光へ向けてさらに一歩前進した。この成果は、本研究で実現を目指す高感度(e, 3e)分光で捉える電子相関運動を立体的に理解するのに役立つため、研究はおおむね順調に進んでいると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、平成27年度に開始した高エネルギー分解能化および電子運動量分布に現れる干渉効果の研究を引き続き進める一方で、2電子原子であるHeを対象とした(e, 3e)分光実験を試み、高速電子衝突電離で生成する散乱3電子の運動量ベクトル相関から電離前の二電子運動量相関を調べる予定である。電子相関を調べるのに最適な実験条件を見いだし、有機半導体の基本分子の一つであるベンゼンのπ電子を対象として、2電子運動量密度分布の測定を試みる。またナフタレンや、アントラセンなどの多環芳香族炭化水素分子について系統的な実験を行い、分子サイズや縮合パターンとπ電子相関運動との関係を明らかにする。 さらに、実験が順調に進めば、フェムト秒レーザーにより光励起した不安定過渡状態の電子運動量相関の観測も試みる。その際にはまず予備実験として、研究代表者らが所有するフェムト秒レーザーシステムを用いて、連続電子線による実験を行う予定である。その結果を受けて、時間分解(e, 3e)電子運動量分光の開発へ向けた検討を始める。
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Causes of Carryover |
当初の研究計画では低速電子用の運動量画像観測分光器を試作する予定であったが、本研究が目的とする(e, 3e)分光を実現するためにはまず、(e, 2e)分光のエネルギー分解能の改善および既存装置を用いた分子軌道形状の精密分光を優先して進める必要が生じたため。こうした研究計画の修正に伴い、平成27年度の使用額を変更した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は、幾つかの単純分子に対して既存装置を用いた(e, 3e)実験を行うとともに、時間分解測定へ向けた検討を開始する予定である。そのため今年度の未使用分および次年度の助成金を合わせたものを主に、実験サンプル、既存装置の消耗品、および光学部品を新たに購入するために割り当てる。
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