2016 Fiscal Year Research-status Report
陽子-電子質量比の時間依存性研究のためのCaH+の振動回転定数の決定
Project/Area Number |
15K13545
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
岡田 邦宏 上智大学, 理工学部, 准教授 (90311993)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
梶田 雅稔 国立研究開発法人情報通信研究機構, 電磁波研究所時空標準研究室, 主任研究員 (50359030)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 分子イオン分光 / イオントラップ / クーロン結晶 / 陽子ー電子質量比 / 光解離 / CaH+ |
Outline of Annual Research Achievements |
岡田は、昨年度に引き続き10K冷却イオントラップ中においてレーザー冷却されたCa+に対して、電子振動回転遷移を励起する405nmレーザーを照射し、CaH+からのレーザー誘起蛍光観測実験を行った。信号のS/Nを上げるため、CaH+イオン数を数1000個程度に増加させた実験条件に変更し、高速シャッターを用いた冷却レーザーと分光レーザー交互照射による観測を行なったが、これまで確証の得られるLIF信号の観測はできていない。一方,LIF観測よりも感度の高いパルス色素レーザーによるCaH+光解離実験も継続して行った。昨年度は波長283-287nmの範囲におけるCaH+の解離を確認し、光解離断面積の評価を行なったが、遷移の同定には至らなかった。そこで、過去に計算されたCaH+ポテンシャル曲線を再検討し、基底状態から1Π状態への遷移であることを確認した。また、梶田によるCaH+ポテンシャル曲線、及びCaH+振動遷移分光波長の検討結果に基づき、270-280nm,370-420nmの2つの波長領域に拡張した光解離実験を計画した。実際に274-280nmの紫外パルスレーザーを照射したところ、275nm付近でCaH+の光解離を確認した。 一方,梶田はCaH+の振動遷移分光を行なっているジョージア大K. Brownらと情報交換を行ない、測定が難航しているCaH+からのLIF観測に代わる光解離法について検討を行なった。また、昨年度に引き続き分子イオンを用いた精密振動遷移分光を行うための新たな候補の探索も行なった。特に酸素分子イオンの振動遷移周波数について詳細な検討を行い、DC Starkシフトは非常に小さく、特定の振動回転準位を2つ測定することによってZeemanシフトを完全に除去できることを示し、17 桁以上の確度を得ることが可能であることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昨年度に引き続き極低温CaH+イオンに対して電子振動回転遷移(波長405nm)を励起し,レーザー誘起蛍光(LIF)の観測を試みたが、残念ながらCaH+からの明確なLIF信号が得られていない。一方、光解離実験を利用した分光法は感度が高いため、振動・回転定数の測定には有望である。そこで、昨年度特定した光解離波長(283-287nm)とは別の新たな波長での光解離波長(275nm付近)を特定した。今回提案した270-280nm,370-420nm波長領域での光解離が前期解離状態への励起であれば、振動・回転定数の決定に有用であることが分かった点は研究の進展に寄与するものと考えられる。一方、新たに光解離実験を導入したことで、405nmレーザーによる電子遷移の励起と赤外レーザー(波長3.5μm)による振動励起を組み合せた実験を進展させることができていない。 以上の研究の現状を鑑みた結果、やや遅れているとした。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、CaH+からのレーザー誘起蛍光の検出効率改善、及び様々な波長領域で光解離実験を行うために、冷却イオントラップとパルス色素レーザーシステムの改良を行う。前者に関しては、新たな10K冷却イオントラップの開発を進める。クウォーツビューポートを現状のICF34(2箇所)からICF152, ICF70のタイプに変更し、レーザー入射の自由度を確保するとともに、冷凍機動作による蛍光検出効率の悪化を改善するため、イオントラップをマウントしている10K冷凍機にベローズニップルを接続し、イオントラップの位置合わせ機構を追加する。その機構を用いて、イオントラップを冷却した際に生じる金属の収縮によるトラップ位置の変動を補正し検出立体角の改善を行なう。また、LIF検出レンズ系の改善も行う。具体的には、現在LIF画像観測に使用している可視域用高倍率レンズではなく、低倍率の紫外用レンズを用いることによって観測範囲を広げ、レンズの透過率をよくすることで検出効率を改善する。一方、パルス色素レーザーの改良については予算状況にもよるが、回折格子の交換、または励起レーザーをNd:YAGの3倍波に変更することによって、370-420 nm領域でのレーザーを用いた光解離実験が可能となる。この波長領域では光解離を利用した振動遷移分光が行なわれた例があるため、ある程度遷移波長が分かっている。冷却イオントラップ中で分光を行なうことにより、これまで実現されていない回転準位を分離した振動遷移分光が可能となるはずである。その結果を理論式と比較することによって、振動・回転定数の導出を試みる。
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