2017 Fiscal Year Research-status Report
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15K13591
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
隅田 育郎 金沢大学, 自然システム学系, 准教授 (90334747)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | マグマだまり / 部分溶融体 / 結晶 / マッシュ / スラリー / 溶岩湖 / 脱ガス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では初期に全溶融、熱対流していたマグマだまりが次第に冷却し、部分溶融状態を経て、固化する全過程をモデル化した実験を行う。そしてリキダス温度(部分溶融度)、固化速度、温度勾配を変えた時の固化過程、固化組織の違いを整理し、それらの因果関係を明らかにすることを目的としている。 当該年度はポリエチレングリコール(PEG)水溶液をマグマのモデル物質として用い、その水分を増やして、リキダスが低下した場合の実験を行った。また上部及び下部から室温で冷却する場合と、氷水で上から冷却する場合の3通りの熱的な境界条件下で実験を行った。その結果、リキダスが低下してソリダスとリキダスの温度差が増大し、部分溶融度が大きくなると、結晶を含むコールドプルームが剥離、沈降し、結晶の堆積、巻き上げが起きることが発見された。コールドプルームは部分溶融層に根を持ち、熱対流と供に水平方向に移動して、セルが合体する現象が観察された。このように固化フロントで重力不安定が起きて、沈降が起きることは過去に憶測されていたが、PEG水溶液を用いて実験で実証されたのは私達が知る限り、初めてである。また相補して行ったPEG水溶液のレオロジー測定に基づき、部分溶融体が固体的に振る舞うようになる「リキダス」温度を定義した。そしてこの温度がPEGが白濁化する温度と2度以内で一致することを示した。これらの結果を用いて、PEG水溶液の水分が増加すると固化フロントで顕著な過冷却が起きていることが分かった。さらにリキダス温度が低下すると、固化に要する時間が長くなるため、固化組織に保存されるセルの数が増加し、大きな結晶が形成することが分かった。 以上、本研究により上部熱境界層を形成する部分溶融層の重力不安定、固化フロントにおける過冷却を実証し、リキダス温度の低下に伴う固化組織の多様性を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初期にリキダス温度よりも高温で熱対流をしていたマグマだまりが、部分溶融状態を経て、冷却、固化する過程をモデル化した実験とその解析を行った。モデル物質としてはPEG水溶液を用いた。この物質は水分量が増加するに伴い、リキダス温度が低下し、スラリー、マッシュを形成する。レオメータを用いてPEGの貯蔵(G')、損失弾性率(G'')の温度依存性を測定した。固化に伴いGは7桁増大し、Gの増加が開始する温度は水分の増加に伴い、低下することを確認した。G'とG''が等しくなる温度をリキダス温度と定義し、PEGが白濁化する温度と2度以内で一致することを確認した。上部から冷却した場合、水分が増加すると結晶を含む上部の熱境界層が剥離すること、結晶が対流から分離して堆積すること、さらに液体中に結晶が浮遊する状態が実現されることが観察された。また固化の進行は下降域で速いため、固液境界は上に凸のアーチの形状を形成した。固化フロントにおける温度を計測したところ、水分が増加するに伴い、リキダス温度より温度が低下しても固化が起きない過冷却が起きることが分かった。本実験の対流パターンは粘性率が温度に強く依存する場合の熱対流と定性的に類似している。後者の場合は上下の粘性比が7桁異なる場合はStagnant lid 対流となることが分かっており、その結果と一致する。しかしレジームが遷移する上下層の粘性比の値は異なり、結晶を含む非ニュートン粘性、過冷却を含めた定式化が必要であることが分かった。 上記の実験に相補して、結晶体積分率(φ)を変えて結晶を含むマグマにおける発泡、脱ガス実験を行った。その結果、φが増大するとφ < 0.2では実効的な粘性率の増加により脱ガスが抑制されるが、φ > 0.2では固体的に振る舞い、クラックが形成するため脱ガスが促進されることが判明した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は米国地質調査所ハワイ火山観測所に2ヶ月滞在し、キラウエア火山の溶岩湖をフィールドとして、これまで行ってきた実験と対比するために、溶岩湖の固化及び脱ガス過程についの観測を行う。野外観測は熱画像と空振の2つについて行う。1つ目の熱画像観測により、溶岩湖の湖面高さ、温度、また対流パターンとその速度を計測する。溶岩湖面ではプレートテクトニクスと同様に、いくつかのプレートに分かれ、上昇域、下降域が存在する。プレートサイズ、沈み込み様式の多様性を熱画像を元に分類する。昨年度行った実験では上面に蓋が存在したため、プレートテクトニクスと類似した現象は起きなかったが、プレートの沈み込みと類似した熱境界層の剥離現象は観察された。将来的にはPEG水溶液を用いたプレートテクトニクスの実現するための基礎となる観測データを得たい。2つ目の近接場における空振観測を低周波数用(1-500Hz)と高周波数用(40-4000Hz)の2つのマイクと計測器のセットを設置し、インフラサウドから可聴域にかけて幅広い周波数帯で観測を行い、気泡の破裂と共振のそれぞれを起源とするシグナルを分離する。そして、スパタリング、ガスピストン現象が空振で捉えられるか検証する。現在、粒子を含む粘性流体の中を上昇する気泡、気泡流が破裂することにより励起する空振のモデル実験を行っており、観測と実験を比較する。以上の観測結果は投稿論文としてまとめる。
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Causes of Carryover |
マグマからの脱ガスと空振励起のモデル実験と解析を行う中で、マグマの結晶度、溶岩湖面の高さと空振周波数、減衰の関係が判明した。そこで天然の溶岩湖において熱画像と空振を観測することにより、実験から得られた法則性が天然で検証出来ると考えた。そのためにハワイ火山観測所の協力を得て、キラウエア火山において2ヶ月の観測を次年度に行うことにした。次年度は当該助成金は、本観測を行うために必要な旅費と滞在費、また観測機器(ICレコーダー、三脚、ノートパソコン、バッテリー、ハードディスク)を購入するために用いる。
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Research Products
(7 results)