2015 Fiscal Year Research-status Report
真空中に生成した液滴の熱力学過程の計測と生体分子解析への展開
Project/Area Number |
15K13627
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
寺嵜 亨 九州大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (60222147)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 液滴 / 真空 / エチレングリコール / 熱力学 / 蒸発冷却 / 輻射加熱 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究実施計画に沿って研究を進め、真空中に60ミクロン程度の大きさの液滴を一滴ずつ生成する技術、それを帯電させてイオントラップに捕捉し、数十秒間保持する技術をまず開発した。大気圧下では、液滴が大気との摩擦で減速されるため捕捉が容易であり、しかも完全に静止させることができたが、真空中では減速効果がないことが技術上の困難となった。この問題に対して、発生後の液滴をパルス電場で減速する工夫をして対処した。こうして50秒以上の長時間にわたって液滴の捕捉を可能とした。この液滴を光学レンズ系で拡大し、2ミクロン程度の空間分解能で撮像した。最初に、エチレングリコールを液体試料とした。エチレングリコールは水などと比べて蒸気圧が低く、真空中で比較的長く液相が保たれると考えた。そこで、蒸発冷却を考慮したシミュレーションを行い、凍結までの時間を5秒程度と予測した。実験では、発光時間2マイクロ秒のLEDを遅延時間を変えながら捕捉した液滴に照射し、液滴発生後50秒まで撮像した。取得した画像から液滴の大きさを評価し、時間とともに半径が直線的に減少する様子を捉えた。同時に、ナノ秒パルスレーザー光を照射し、その散乱画像から液滴が液相か固相かを判定した結果、50秒後にもまだ液相を保っていた。これらの実験結果から、エチレングリコール液滴は、真空中で液相を保ったまま蒸発を続けていると結論した。これは、5秒程度で凍結するとした当初の予想を覆す結果であり、その原因をさらに探った。その結果、液滴を取り囲む実験装置が室温に保持されており、その輻射による加熱が蒸発冷却と拮抗し、液滴が凝固点以上の温度に保たれることを突き止めた。このように真空中においても液体はすぐには凍結せず、単純な予想よりも長く液相を保つ可能性があることを見出した。以上により、真空中での液体利用に向けた重要な成果を上げた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初、真空中の液体は蒸発冷却の効果によって速やかに凝固・凍結すると予想していた。ところが、エチレングリコールのように蒸気圧が比較的低い液体の場合、室温程度の輻射が加熱に寄与するために単純な予想よりも極めて長く液相が保持されるという、当初の予想を覆す事実を見出し、真空中での液体利用に向けて大きく研究が進展した。また、この研究に取り組んだ大学院学生が、2015年9月の分子科学討論会で優秀ポスター賞を受賞した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに見出した真空中の液滴の一連の熱力学過程について、液滴の温度の評価が課題として残されている。当初から計画しているラマン散乱による温度測定の準備を既に開始しており、今後、スペクトルの測定を本格的に行ってゆく。さらにエチレングリコールよりも蒸気圧の高い液体も試料とし、最終的に水液滴の実験にも挑戦する。
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Causes of Carryover |
予定よりも安価に購入できた物品があり、若干の剰余金が発生した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度の物品費に充てて有効に使用する。
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