2016 Fiscal Year Research-status Report
真空中に生成した液滴の熱力学過程の計測と生体分子解析への展開
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15K13627
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
寺嵜 亨 九州大学, 理学研究院, 教授 (60222147)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 液滴 / 真空 / エチレングリコール / 水 / 熱力学 / 蒸発冷却 / 過冷却液体 / 凍結核生成 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度に真空中のエチレングリコール液滴が1分以上にわたって過冷却状態の液相を保つことを見出したことに続き、本年度は、研究の最終目標である水液滴の研究に取り組んだ。水は、エチレングリコールよりも蒸気圧が100倍程度高く蒸発冷却効果が大きいため、10 ms程度で凝固することがまず分かった。そこで、数百個の水液滴について、凝固したか否かを照射したレーザー光の偏光解消を計測して判定し、凍結までの時間を統計的に測定した。その結果、発生後8.5 msから凍結が始まり、10 msまでにすべてが凍結することを見出した。凍結時の液滴温度は蒸発冷却モデルによるシミュレーションから233~235 Kと見積もられた。液滴サイズを直径50~70ミクロンの範囲で調節して同様の測定を行ったところ、サイズの増大とともに凍結までの時間は長くなったが、凍結温度は変化しないことが明らかとなった。この温度は純水の均質凍結温度232 Kとほぼ一致する結果となった。 一方、ラマン散乱を利用して液滴の温度を計測する実験を試みた。エチレングリコールのバルク液体を試料として、265~292 Kの温度範囲でスペクトルを測定した。その結果、3400 cm-1を中心とするO-H伸縮振動バンドの強度が、高温ほど高波数側が増大し、低波数側は低下した。両者の積分強度比の対数値と温度の逆数との間に直線関係が得られ、これを較正曲線としてスペクトル形状から温度がわかることを示した。真空中では、液滴をトラップ内で静止させることが実験上の次の課題となった。 なお、当初予期しなかった現象として、水液滴の実験中に凍結過程で破砕する液滴を多数捉えた。これは凍結が液滴表面から進むことを示唆する結果であり、内部凍結時の体積膨張で破砕したと考えられる。この確証を得るために、さらに実験と解析を継続して成果をまとめることとした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
真空中の水液滴について、液滴内部よりも表面が優先的に凍結することを示唆する現象が観察された。表面が急冷される真空中の液滴に固有の現象と考えられ、従来の研究では指摘されてこなかった発見があった点で研究が大きく進展した。
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Strategy for Future Research Activity |
真空中の水液滴について、真空に暴露された表面が急冷されるため、液滴内部よりも表面が先に凍結したと考えられる現象が見出された。従来の研究では指摘されてこなかったこの現象を解明するために実験と理論解析をさらに進め、その確証を得た上で成果を取りまとめる。
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Causes of Carryover |
真空中に生成した液滴の研究について、エチレングリコール液滴および水液滴を試料として、ほぼ計画通りに実験を進めてきた。前者については既に論文発表を行って成果を公表したが、後者については当初予期しなかった現象が見出されたため、慎重に再実験を繰り返した後に成果発表を行うべきと判断した。以上の理由で補助事業期間延長を申請し、承認して頂いた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
再現性を確認する実験と理論解析に係る費用、ならびに成果発表のための経費に充てる。
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Remarks |
http://www.scc.kyushu-u.ac.jp/quantum/index_j.php
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Research Products
(4 results)