2015 Fiscal Year Research-status Report
ディラック方程式の正確な解法とその高速化:重元素化学への展開
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15K13632
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Research Institution | Quantum Chemistry Research Institute |
Principal Investigator |
中嶋 浩之 特定非営利活動法人量子化学研究協会, 研究所, 部門長 (80447911)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ディラック方程式 / 自由完員関数法 |
Outline of Annual Research Achievements |
重元素を含む化学を理解するためには、相対論効果を無視することができず、しばしば現象の本質となる。物質科学の相対論的基礎方程式はディラック方程式であり、これを正確に解く理論体系と、それを有用に展開することのできる計算手法の確立が重要である。ディラック方程式の性質として、波動関数が多成分であること、変分崩壊が起こり得ること、以外は、非相対論シュレーディンガー方程式の解法と類似している。多電子系では、計算量の増加を抑え有用な計算速度を実現できる計算アルゴリズムの開発が必須であり、特に計算律速部の電子の反対称化を加速する必要がある。本年度は、基礎となる非相対論シュレーディンガー方程式の解法において、その計算アルゴリズムの開発や計算を行ってきたが、ディラック方程式の解法まで適用することができなかった。来年度はシュレーディンガー方程式の解法で培った方法や計算ノウハウを土台に、ディラック方程式の解法に応用していきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
一般的な多電子原子・分子の解法では、少ない計算時間で計算できる計算アルゴリズムとプログラム開発が必須であるが、この点は、シュレーディンガー方程式と問題を一にしている。H27年度は、基礎となるシュレーディンガー方程式に対し、高速な反対称化計算アルゴリズム法などを導入し計算を進めてきたが、ディラック方程式の解法まで適用することができなかった。相対論効果が重要な重原子では、内殻シェルと価電子シェルは、それぞれ独立に取り扱うことができ、その間の電子の交換もほぼ不要となると考えられる。そのような波動関数の効率的な記述について現在考察を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
H28年度は、これまでシュレーディンガー方程式の解法で培った方法や計算ノウハウを基に、ディラック方程式の有用な計算アルゴリズムとプログラム開発を行い、相対論効果が本質的に重要な系に応用したい。内殻シェルと価電子シェルを分離し、効率的な波動関数の記述と不要な電子交換を排除することで、多くの電子を持つ重原子等への応用を考える。これらのディラック方程式の解など誰も解いたことはなく、基礎科学としても学術的意義は非常に大きい。これらは、チャレンジングな対象であるが、近似的なスカラー相対論、スピン軌道相互作用を段階的に導入するなど、近似的なアプローチも併用し、最終的にディラック方程式の精密解に帰着させたい。 また、シュレーディンガー方程式やディラック方程式の超精密解は、素粒子物理学、極低温物理学、宇宙科学等の基礎分野からの需要も大きく、その中でも、宇宙科学や基礎物理科学で、相対論的物理効果が重要な現象に応用する。まず、宇宙の超強磁場下での原子・分子の化学(物性や化学結合)を、ディラック方程式の正確な解を計算し探究する。強磁場下では、クーロン力よりもスピン磁気エネルギーが主役となり、また相対論効果も無視できないため、興味深い物性や化学結合の法則が発見される可能性がある。
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