2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K13681
|
Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
塩見 大輔 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 准教授 (40260799)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 核酸 / ラジカル / スピン / 磁性体 / 分子力学法 / 分子力場計算 / DNA |
Outline of Annual Research Achievements |
DNAを分子集団が機能を発現する場として捉えた場合,その最も魅力的な特徴は,塩基配列が分子レベルでの「番地」になり得る点である.DNAの塩基配列を使えば,電荷やスピンを持った分子を望みの場所に望みの配列様式で並べることが可能になる.不対電子(スピン)を持つ分子を並べて磁性体を得るためには,分子間のスピン-スピン交換相互作用を制御することが不可欠であるが,そのためには,真に分子レベルでの構造制御・波動関数制御(近接する分子軌道同士の相対配向の制御)が求められる.本研究では,多数のラジカル小分子を水素結合により非共有結合的にDNA上で会合させることにより,スピン集積系を構築することを提案する. 本申請者のこれまでの科研費課題では,天然型の核酸塩基に安定なニトロキシドラジカルを置換した「安定ラジカル導入型核酸塩基」を合成し,それらをbuilding blockとして,種々の分子スピン系を構築してきた.本研究では,このアプローチをさらに発展させて,電子スピンを担う多数の分子の配列パターンを,一本鎖DNAの塩基配列であらかじめプログラムしておくことにより,開殻分子の組織化・分子配列制御を行なうことを目的とした. 初年度はまず,一本鎖DNAと安定ラジカル導入型核酸塩基との会合体の安定性を調べるために,種々の核酸塩基誘導体について,分子力場計算をおこなった.閉殻の小分子(核酸塩基誘導体)を一本鎖DNAと会合させた研究例を参考にしつつ,会合体形成能を比較検討した結果,平面型芳香族部位とポリエチレングリコールを置換基として有する塩基誘導体が有望であることが明らかになった.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
DNAの塩基配列を利用した低分子集合体の分子配列制御は,すでに多くの試みがなされている.しかし,不対電子を持つラジカル分子の場合には,その合成化学的な困難さから,オリゴヌクレオチドの塩基配列を直接反映した集合様式をラジカル集合体に与えることに成功して磁気機能の発現にまで至った例は見られない.このような状況に鑑み,閉殻の小分子(核酸塩基誘導体)が一本鎖DNAとの会合体を形成した成功事例を検討することとし,平面型芳香族部位とポリエチレングリコールを置換基として有する塩基誘導体について,分子力場計算を中心に候補となる構造探索を行なった.ラジカルのニトロキシド部位については,信頼性の高い力場パラメーターがないため,カルボニル基に置き換えて計算した.その結果,オリゴチミジン誘導体とジアミノピリジンまたはジアミノトリアジン誘導体の組み合わせで,安定な会合体が得られることが明らかになった.
|
Strategy for Future Research Activity |
分子力場計算の結果に基づいて,低分子(安定ラジカル導入型核酸塩基)と一本鎖DNAとの会合体を水溶液中で作成する.会合体の合成スピン量子数(基底スピン多重度)を,(i)凍結水溶液の磁化測定(SQUID 磁束計による),(ii) 凍結水溶液のESRスペクトル測定から決定する.必要に応じて(iii)室温での溶液ESR の測定も行なう.窒素核による超微細構造は合成スピン量子数を反映した特徴的な分裂パターンになる場合があり,このパターンから,会合体内の交換相互作用と超微細結合定数との相対的な大小関係を明らかにできる.なお,非凍結状態での溶液ESRでは,水による誘電損失が問題になることがあるが,共振器の共鳴モードやサンプルの形状などのサンプリング法を工夫することにより,測定上の困難は生じないことがわかっている.
|
Causes of Carryover |
初年度に行なった分子力場計算などの結果から,会合体を構成する小分子の構造を若干見直すこととした.そのため,有機合成用試薬・溶媒の購入に充てる経費が当初の予定に較べて少ないものになった.
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
会合体の最適構造探索は次年度も引き続き行なう予定である.上記の理由によって生じた次年度使用額の一部は,そのための計算ソフトウェアの購入に充てる.さらに,ソフトウェア購入後の残額は,翌年度分として請求した助成金と合わせて,有機合成用試薬・溶媒および,磁気測定用の液体ヘリウムの購入に充てることにする.
|