2016 Fiscal Year Research-status Report
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15K13688
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
新谷 亮 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (50372561)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 拡張π共役化合物 / 縫合反応 / ロジウム触媒 |
Outline of Annual Research Achievements |
ケイ素で架橋されたπ共役有機化合物は、その光電子的性質から有機材料としての利用が期待されている。しかしながら、アクセス可能な分子骨格に大きな制限があるのが現状であり、本研究では、新たな合成戦略として、ロジウム触媒によって2つの異なるオリゴ(シリレン-エチニレン)間を縫い合わせる「縫合反応」を考案し、キノイド型縮環オリゴシロールの新規合成およびその物性評価について研究を行うこととした。昨年度までの研究で、縫合反応の開発とそれを用いたキノイド型縮環オリゴシロールの合成を実現し、ケイ素を奇数個(1, 3, 5個)もつケイ素架橋π共役化合物の合成に成功していた。そこで今年度は主に、反応基質を適切にデザインすることにより、ケイ素を偶数個もつ類縁体の合成に取り組んだ。その結果、ロジウム/シクロオクタジエンまたはロジウム/テトラフルオロベンゾバレレン触媒存在下、最大で9つの炭素―炭素結合を連続的に形成させることにより、6つのケイ素を含む生成物まで合成することができた。昨年度に得られた化合物と合わせて、ケイ素の架橋部位が1から6個まで一連の化合物合成が実現し、これらの電気化学測定によって、共役長が伸びる順に酸化電位が低下(HOMOの準位が上昇)するとともに還元電位もこの順に低下(LUMOの準位が上昇)するという特異な現象を見出した。この特異な現象が何に由来するかを明らかにするため、量子化学計算を用いた様々なモデル化合物の比較検討も行い、キノイド型縮環オリゴシロールの末端構造が性質発現において重要な役割を果たしていることを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
これまでにも架橋型π共役化合物の合成についての研究は他の研究者らによって盛んに行われているが、今回提案する「拡張π共役系分子の革新的合成法の開発」においては、これまでにない画期的な合成戦略のもと、従来法ではアクセスできない様々な新規拡張π共役化合物を効率的に構築する手法を確立し、新しい機能性分子開拓への足掛かりとすることを目指している。幸い、本研究の成否に直結していると言ってもよい合成戦略「縫合反応」の実現については昨年度の研究でクリアしている。したがって、その効率向上や適応可能な基質の拡充が今年度の主な研究対象となるが、提案する研究課題がチャレンジングであるため、提案通りの内容を実現するには紆余曲折・試行錯誤を経ることが予想される。実際、今年度の研究においては、上記の「研究実績の概要」で述べたように一定の成果は得られたが、反応効率向上のための触媒改良などに予想以上の時間を要したため、適応可能な基質の拡充においては当初の目標からすると多少進捗が遅めになってしまっている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究を通じて、研究提案内容の根幹となる「縫合反応」のコンセプトを実現することができ、本合成手法でしかアクセスできない新規拡張π共役化合物の合成にもある程度成功した。ただ、縫合反応の高効率化および汎用性の拡大は依然として今後の重要な課題の1つである。とくに、利用可能な基質の多様化および複雑化に耐え得る反応系・触媒系の構築が鍵となる。また、本研究においてこれまでに合成した新しいπ共役化合物群が電子的・光学的に興味深い性質を持つことが分かっており、これら化合物の物性発現の要因について量子化学計算によって理解を深めることもある程度できたが、今後の研究を推進する上で、さらなる構造と物性の相関およびその起源について明らかにしていくことは重要な課題である。このように、今後は拡張π共役系分子の革新的合成法の開発をさらに進めるとともに、得られる化合物の物性評価・理解を通じて新しい機能性分子開拓への礎を築けるよう研究を行う必要がある。
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Causes of Carryover |
今年度当初の計画では、様々な架橋部位を持つ新規拡張π共役分子の効率的合成法の開発とそれら分子の物性評価を行い、平成29年3月までにその成果を取りまとめる予定であったが、合成反応における効率向上のための触媒改良などの条件検討や、適切な基質の分子設計及び合成において想定以上の時間を要したため計画に遅延が生じ、平成29年度まで期間を延長することが必要となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度および28年度で得られた知見をもとに、平成29年度は従来法では未だにアクセスできない新規拡張π共役化合物群を効率的に構築する反応を開発・確立し、得られる化合物の詳細な物性評価を行うことで新しい機能性分子開拓への足掛かりとすることを目指して研究を遂行する。次年度使用額は、その際に必要となる有機化合物を合成する際の試薬類や、ガラス器具・実験器具など消耗品の購入に充当する予定である。
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Research Products
(15 results)