2015 Fiscal Year Research-status Report
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15K13698
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
桑野 良一 九州大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (20273477)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 触媒的不斉合成 / 水素化 / ベンゼン / サリチル酸 / ロジウム / ルテニウム |
Outline of Annual Research Achievements |
各種金属担持触媒と[RuCl(p-cymene)(binap)]Cl錯体を用いて、様々な反応条件下でサリチル酸エチルの水素化を試みた。その結果、金属担持触媒としてRh/Cを用いることによって、サリチル酸のベンゼン環が水素化された2-ヒドロキシシクロヘキサンカルボン酸エチルがトランス/シス比93/7、不斉収率71% eeでほぼ定量的に得られた。さらに、BINAP以外の様々な不斉配位子を用いてサリチル酸エチルの不斉水素化を試みた、不斉配位子としてC3-TUNEPHOSを用いることによってトランス体の2-ヒドロキシシクロヘキサンカルボン酸エチルが92% eeで得られた。 ここで見出されたRh/C-[RuCl(p-cymene)(C3-tunephos)]Cl複合触媒系を用いて、各種サリチル酸類縁体の不斉水素化を試みた。その結果、この触媒系によって、サリチルアミドやo-ヒドロキシベンゼンホスホン酸エステルが比較的良好なエナンチオ選択性で水素化されることがわかったが、シス/トランスのジアステレオ選択性を制御することはできなかった。 本不斉触媒系の詳細を解明するため、幾つかのコントロール実験を行った。本複合触媒系を用いて、本水素化の中間体と考えられる2-オキソシクロヘキサンカルボン酸エステルの水素化を試みたところ、サリチル酸エチルの水素化とほぼ同じ立体選択性で水素化生成物が得られた。さらに、[RuCl(p-cymene)(C3-tunephos)]Clのみを触媒としてサリチル酸エチルの水素化を試みたが、基質は全く消費されなかった。以上の結果より、本触媒的不斉水素化では、Rh/Cによってサリチル酸のベンゼン環が水素化されて生成する環状β-ケトエステルが、光学活性ルテニウム錯体によって動的速度論的分割を伴う不斉水素化によって光学活性シクロヘキサンに変換されていると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度に目標とした、サリチル酸エステルの触媒的不斉水素化に有効な金属担持触媒-光学活性遷移金属錯体触媒複合触媒系を開発し、92% eeの高い立体選択性を達成した。また、反応機構に関する研究を行い、サリチル酸エステルの触媒的不斉水素化が当初想定したとおりの反応経路で進行することを照明し、立体選択性発現のメカニズムを解明した。 一方、当初の計画を超えて、平成27年度に開発したRh/C-[RuCl(p-cymene)(C3-tunephos)]Cl複合触媒系を利用してサリチル酸類縁体であるサリチルアミドやo-ヒドロキシベンゼンホスホン酸エステルの水素化を試みたが、良好なエナンチオ選択性を達成することはできたものの、ジアステレオ選択性の制御は上手くできず、本触媒系の汎用性を示すことができなかった。今後の検討課題である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度で開発されたサリチル酸エステルの触媒的不斉水素化の反応機構をさらに詳細に解明する。特に、Rh/C触媒と[RuCl(p-cymene)(C3-tunephos)]Cl触媒の役割を解明すると同時に、それぞれの触媒がもう片方の触媒に及ぼす影響をコントロール実験やNMRなどを用いて明らかにする。 さらに、当初の計画どおり、アントラニル酸エステルの触媒的不斉水素化の開発に着手する。この反応の中間体として二つの可能性を想定し、それぞれの想定に基づいた触媒探索を試みる。基本的にはベンゼン環の水素化に高い活性を示すRh/Cを金属担持触媒とし、各種光学活性ルテニウム、イリジウム、ロジウム錯体の不斉誘起能を調査する。さらに、ここで見出される不斉触媒を用いて、金属担持触媒をスクリーニングする。以上の繰り返しによって、アントラニル酸エステルの不斉水素化に有効な金属担持触媒-光学活性遷移金属錯体触媒複合触媒系を開発する。
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