2015 Fiscal Year Research-status Report
円偏波マイクロ波によるキラリティ制御の合成化学的研究
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15K13700
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
山田 徹 慶應義塾大学, 理工学部, 教授 (40296752)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
今枝 健一 中部大学, 工学部, 教授 (60314085)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 円偏波マイクロ波 / 触媒的不斉合成反応 / キラリティ |
Outline of Annual Research Achievements |
プロキラルケトンの不斉還元反応における実質的な円偏波マイクロ波照射効果の確認を目的とする実験を行った。不斉触媒と還元剤の混合溶液を3分割しそれぞれ、照射無し、右旋偏波マイクロ波照射(RL)、左旋照射(LR)しながら基質を滴下し、得られた生成物の不斉収率を測定,照射の有無によるee値の差(Δee)を求めた。反応基質はアセトフェノン(HAP)、α-クロロアセトフェノン(ClAP)、α-ブロモアセトフェノン(BrAP))で行った。不斉触媒は,(S)-AMPあるいは(R)-AMPを単独に用いたほか、ラセミ触媒((S)-AMPと(R)-AMPを1:1で混合した溶液)を用いた実験も行った。 マイクロ波照射装置は,これまで中部大学で保有していた12.4 GHz装置に加えて,両研究室ともに2.45 GHz円偏波マイクロ波照射装置を準備した。出力は,中部大学が50 W,慶應大学が最大20 Wであり,いずれもキラルコイル型の円偏波アンテナにより旋光方向を制御する。それぞれの研究グループとも簡易な電磁波シールド環境を整え,反応フラスコ,撹拌装置の標準化を行った。発生する円偏波マイクロ波の出力,偏波度などの測定のために装置の改造を行った。 ラセミ触媒条件の実験では,不斉収率の測定に関して統計処理を考慮した分析方法の整備を行った。また,これまでにマイクロ波照射併用条件では,アトロプ軸不斉化合物のラセミ化の半減期が温度条件に比べて短縮されることが見出されており,円偏波マイクロ波照射によるラセミ体のアトロプキラリティに対する影響を調べた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
単独触媒による2.45 GHz 50 Wのマイクロ波照射実験では、3種の基質に対して(S)-AMP,(R)-AMPのいずれを用いてもΔee(RR-blank)とΔee(LR-blank)に符号の逆転は確認できないが、3基質の回転定数(HAP:3.70 GHz, ClAP:2.15 GHz, BrAP:1.80 GHz)に対してΔee(RR-blank)とΔee(LR-blank)をプロットするとClAPが最も大きな値を示した。これはClAPの回転定数がマイクロ波周波数に近いことと関係しているものと考えられる。右旋と左旋の効果を確かめるためにΔee(RR-LR)を計算すると、3基質とも(S)-AMPを用いるとΔee(RR-LR)の符号はマイナスに、(R)-AMPを用いるとΔee(RR-LR)の符号がプラスになり,この逆転は円偏波マイクロ波の旋光性を反映したものである。 ラセミ触媒を用いて12.4 GHzで1 Wの円偏波マイクロ波を照射する実験では、Δee(RR-blank)とΔee(LR-blank)の値が1 %以下であるが、2.45 GHzで50 Wの円偏波マイクロ波を照射する実験では、BrAPを用いた場合Δee(RR-blank)とΔee(LR-blank)の値が2 %を越える変化が観測された。 CBS還元に対するラセミ触媒の調製は,それぞれの触媒の光学純度のほか化学的な不純物の混入により単純な重量混合では完全なラセミ触媒が得られないことがわかった。そこでラセミ触媒の合成ルートを開発した。ピロリジンから4工程で完全なラセミ触媒の合成ルートを確立した。 アトロプ軸不斉ビアリールラクトンに対する円偏波マイクロ波照射実験では,HPLCによるラセミ体の測定値に対する統計的処理によって,20 W照射を8時間行った結果,有意な光学収率が観測されることがわかった。
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Strategy for Future Research Activity |
CBS触媒還元反応系では,12.4 GHz円偏波マイクロ波照射条件でキラル触媒により右旋/左旋に対して生成物の光学純度に有意の影響が確認されており,キラル触媒を用いた実験は引き続き12.4 GHz 1 W 円偏波マイクロ波照射下で行い,効果がより鮮明に確認できる条件の探索に集中する。一方,ラセミ触媒を用いる実験では,完全にラセミ体であることが保証された触媒の合成ルートが確立したので,この合成法で供給される触媒を用いた実験を開始する。この条件では,2.45 GHzの円偏波マイクロ波照射を50 Wまで出力を変えて光学純度に対する影響を調べる。 アトロプ軸不斉化合物に対する反応系の探索では,動的速度論的光学分割を伴う,ビアリールラクトン類の触媒的不斉還元反応に対する円偏波マイクロ波の影響を調べる。光学活性触媒を用いる反応では,マイクロ波照射による軸不斉に関する配座平衡が活性化されると考えられる現象が見出されており,円偏波によるエナンチオ選択性の観測が期待される。 さらにビアリール化合物をキラル配位子とするジアルキル亜鉛の付加反応への展開を図る。ビアリールラクトン類は置換基によってラセミ化の半減期が秒単位から日単位まで調節可能であり,これまでは光学純度の測定の目的で,長い半減期の基質を取り扱った。これに対し短い半減期の軸不斉化合物では,円偏波マイクロ波による影響は受けやすいことが期待される一方,光学純度の測定は困難である。そこで,不斉増幅現象を応用し,円偏波マイクロ波照射で生成したキラリティを有する光学活性配位子により不斉付加反応を制御し,生成物の光学純度としてキラリティの測定を行う。具体的には,軸不斉ビアリールアミノアルコール類によるジアルキル亜鉛の付加反応では,不斉増幅現象が期待されるため,円偏波マイクロ波によるキラリティ誘起がより鮮明に観測されるものと考えている。
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Research Products
(9 results)