2015 Fiscal Year Research-status Report
ポリペプチド側鎖の動的組換えによるタンパク質的高次構造および分子認識能の発現
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15K13705
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
大山 俊幸 横浜国立大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (30313472)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ポリペプチド / 動的共有結合 / 高次構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
特別な刺激なしで水中での結合組換えが可能なチオエステル/チオール動的共有結合系を用いることにより、水中でのポリペプチド側鎖の動的組換えを行った。まず、ポリ(L-グルタミン酸)とグリシンチオエステルとの縮合反応により、側鎖末端にメチルチオエステル構造を有する水溶性ポリペプチド1を合成した。このポリペプチド1と1種類のチオールを水中で共存させることにより、側鎖の動的組換えの進行およびそれに伴う高次構造変化について検討を行った。その結果、OH基を有するチオール(MB)およびフェニル基を有するチオール(BM)を使用した場合は、側鎖組換え後もポリペプチド1と同じα-へリックス構造が維持されるのに対して、スルホン酸塩構造を有するチオール(MESNA)を用いると高次構造がランダムコイルに変化することが明らかとなった。また、各チオールのポリペプチドへの導入率はMB>MESNA>BMの順となった。MESNAにおける導入率低下は、導入されたスルホン酸塩側鎖間の静電反発が原因と考えられる。一方、BMを用いた組換え系では、BMの導入に伴って水溶性が低下しポリペプチドが析出したため、導入率が低下したものと考えられる。 続いて、MB, BM, MESNAを同時に添加して側鎖組換えを行ったところ、ポリペプチド側鎖へのそれぞれのチオールの導入を示すピークが1H-NMRスペクトルにおいて観察され、各チオールの導入が確認された。また、3種類のチオールを同時に添加した系において、組換え反応に伴うポリペプチド主鎖高次構造の変化をCDスペクトルにより追跡したところ、各チオールを1種類ずつ添加した場合とは異なるスペクトル形状を示すことが明らかとなった。この結果は、多種類のチオールを用いたポリペプチド側鎖の動的結合組換えにおいて、側鎖間相互作用が最小化された新たな高次構造が形成されたことを示唆していると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画において、平成27年度の計画として「1.側鎖にチオエステル構造を有するポリペプチドを合成すること」「2.ポリペプチド側鎖上のチオエステルと1種類のチオールとの組換えを行い、反応の進行と高次構造変化を確認すること」および「3.多様な相互作用が可能な複数のチオールを同時に添加した組換え系において反応の進行と高次構造変化を確認し、新たな高次構造を創出すること」を掲げていた。それに対して、「研究実績の概要」欄に記載したとおり、平成27年度の検討において上記の「1」~「3」を概ね達成する成果を得た。よって、「現在までの進捗状況」としては「おおむね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度におおむね当初計画通りの成果を得たので、平成28年度はその成果に基づいた検討を進める。側鎖の動的組換えにより配列および高次構造が最適化されたポリペプチドは、タンパク質的な特性である「転移的な変性挙動」および「変性条件の除去による高次構造の回復」(Anfinsenのドグマ)を示すと考えられるため、「変性→変性条件除去」実験に伴う高次構造の変化および回復をCDスペクトルにより追跡する。変性および変性条件の除去は、変性剤(変性溶媒や尿素など)の添加・除去により行う予定である。ポリペプチド側鎖に導入する官能基の組合せや組換え時間などを最適化し、タンパク質と同様の再フォールディング能を有する系を実現する。 また、ターゲット分子存在下において側鎖組換え反応を行うことにより、ターゲット情報をモノマーユニット配列および高次構造に刷り込み、高次構造に基づく分子認識が可能なポリマーを得ることを検討する。ターゲット分子としては、ポリペプチド側鎖との種々の相互作用が期待できるアゾ色素やシアニン色素などを用いる。ポリペプチド-色素間の相互作用は、色素由来の誘起CDスペクトルや、UV・蛍光スペクトルの変化、NMRスペクトルにおけるピークシフトなどにより確認する。
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Causes of Carryover |
平成27年度は、実験系の組み方などについて検討を行った結果、当初計画時に想定していた実験スケールよりも小さなスケールでの実験が可能であることが明らかとなったため、試薬類等の購入に充てる物品費が当初計画よりも少額となった。一方で、旅費等の支出は当初見込みよりもやや大きくなったが、物品費低減の影響の方が大きかったため、次年度使用額が生じることとなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度に行う変性実験については最適な条件が現時点では不明であるため、ポリペプチドをはじめとする試薬類を多く購入し、多様な条件について検討を行う必要がある。よって、平成27年度に発生した「次年度使用額」については物品費、特に試薬類の購入に充てる予定である。
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Research Products
(5 results)