2015 Fiscal Year Research-status Report
数フェムト秒パルスレーザー光を光源とする多光子イオン化質量分析の研究
Project/Area Number |
15K13726
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
今坂 藤太郎 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), その他 (30127980)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | レーザー分光 / 分析化学 / 質量分析 / 光源技術 / 爆発物 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は、エタロンの機能を有する特殊な誘電体鏡を特注し、チタンサファイアレーザーのスペクトル波形を整形した。その結果、複数本のスペクトル線が得られた。そのスペクトル間隔は、レーザー光の入射角度により変化したが、誘電体鏡の損傷により再現性のある結果が得られなかった。このため、この方式については、これで検討を打ち切ることにした。そこで、“インパルシブ誘導ラマン散乱”を利用した回転ラマン光の発生、深紫外超短パルス光の発生について検討した。実際に800 nm、35 fsの近赤外超短パルス光で水素を励起し、その後、チタンサファイアレーザーの第三高調波(267 nm)をプローブ光として水素に導入したところ、4本の回転ラマン光を発生させることができた。 光パルスを圧縮するには、発生するラマン光の”スペクトル位相”を求める必要がある。そこで、自己回折(SD)効果に基づく周波数分解光ゲート(FROG)法に基づいて光パルス幅を計測する装置を製作した。まず、紫外プローブ光として用いるチタンサファイアレーザーの第三高調波(267 nm)のパルス幅を測定した。SD FROGトレースの傾きからチャープ量を求めると共に、パルス幅として62 fsの値を得た。スペクトル幅(2.6 nm)から求めたフーリエ限界パルス幅は41 fsであった。これらの値と通過する空気等の分散を考慮すると、SD FROG装置のところでは、パルス幅が52 fsに延長すると考えられる。したがって、測定値の62 fsは妥当と考えられる。これらを勘案すると、開発したSD FROG装置は所定の性能を有していると考えられる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
エタロンの機能を有する誘電体鏡を特注し、これを用いて基本光のスペクトル波形を整形した。実際に誘電体鏡で反射したレーザー光のスペクトルを測定したところ、複数のスペクトル線が観測された。そのスペクトル間隔は、予測したようにレーザー光の入射角度により変化したが、再現性のある結果が得られなかった。これはレーザー光により誘電体鏡が損傷したためであった。そこで、本方式については検討を断念した。次に、インパルシブ誘導ラマン散乱を利用した回転ラマン光の発生について検討した。水素の回転周期の57 fsより短い光パルス(35 fs)により水素分子を同期回転させ、そこに紫外光を導入して多数の回転ラマン光を得る方法である。実際に800 nm、35 fsの光パルスで水素を励起し、チタンサファイアレーザーの第三高調波(267 nm)をプローブ光として水素に導入し、4本の回転ラマン光を得た。 光パルスを圧縮するには、発生するラマン光のスペクトル位相を求める必要がある。そこで、自己回折(SD)に基づく周波数分解光ゲート(FROG)装置を製作し、光パルス幅を測定した。紫外プローブ光(267 nm)について測定し、SD FROGトレースの傾きからチャープ量を求め、62 fsのパルス幅を得た。時間とバンド幅の積(TBP)は0.66であり、フーリエ限界時の値である0.441から大きくなっており、パルスがチャープしていることがわかる。スペクトル幅(2.6 nm)から求めたフーリエ限界パルス幅は41 fsであった。ラマンセルからSD FROGまでの光路中の光学素子(空気を含む)の分散は500 fs2程度であり、SD FROG装置まででは光パルスが52 fsに延長されると予測され、測定値の62 fsは妥当な値と考えられる。これらを勘案すると開発したSD FROG装置は所定の性能を有していると考えられる。
|
Strategy for Future Research Activity |
前年度に得られたラマン光の発振線の数を増大するため、キャピラリー導波路を用いて光と水素の相互作用長を長くする。光パルスを圧縮するためには、発生するラマン光のスペクトル位相を測定する必要がある。そこで、前年度に開発したSD FROGを用いてラマン光のスペクトル位相を測定する。すなわち、FROGトレースの傾きからチャープ量を求める。次いで、ポンプ光とプローブ光の遅延量を調整し、光パルスを圧縮する。さらに、光パルス圧縮のためにプリズム対を用いる方法も検討する。従来の石英プリズムからCaF2プリズムに変更し、3次の分散を低減して光パルスをより圧縮する。 上記のパルス幅測定装置は、空気中でパルス幅を測定するため、さらに質量分析計まで光を伝播させると、空気の分散によりパルス幅が広がる。この問題を解決するため、質量分析計を検出部とする自己相関法(MS-AC)によりパルス幅を測定する方法を開発する。すなわち、2光子イオン化するジオキサンなどを質量分析計に導入して自己相関波形を測定し、パルス幅を求める。このような方式により、質量分析計内において深紫外超短パルスレーザーのパルス幅を測定する。 現在まで、35-100 fsのパルス幅のフェムト秒レーザーを用い、多光子イオン化質量分析における分子イオンを増強する研究を行っている。そこで、本研究では前述の方法により数fsの深紫外超短パルス光を発生させ、C-Cの振動周期の1/4以下の光パルスを用いてフラグメント化を抑制できる”インパルシブイオン化”の有用性を実証する。さらに、この方法を過酸化アセトンなどの爆発物の測定等に適用し、超短パルスレーザーイオン化法の有用性を実証する。
|
Causes of Carryover |
平成27年度は、物品費が見積もり金額より低かったので、本年度使用額がゼロとはならなかった。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度に、当初の予定に加えて物品費として使用する。
|
Research Products
(33 results)