2015 Fiscal Year Research-status Report
分子イオン移動度の分布に基づく分子の定量的コンホメーション多様性分析法の開発
Project/Area Number |
15K13730
|
Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
上田 岳彦 鹿児島大学, 理工学域工学系, 准教授 (80293893)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高梨 啓和 鹿児島大学, 理工学域工学系, 准教授 (40274740)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 衝突断面積 / ESI法 / イオン化 / コンホメーション分布 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度には、フレキシビリティが制限された比較的低分子量の分子イオン(M.W.<400 Da)を選択して、計算で得られたCCS分布が実験的に得られたCCS分布の実測値を予測できるかどうかによってモデルの信頼性を評価した。研究分担者は現有のWaters社製Synapt G2を用いて、主に薬剤分解産物などの低分子モデルの実測CCS分布の決定を担当した。 CCS分布の計算に関しては、本研究課題の主要な分析対象物質の水溶液中の構造異性体・コンホメーション多様性を再現する分子構造ライブラリを自動生成する汎用ソフトウェアを開発した。また、マススペクトル法の衝突断面積分析に供するためのプロトン付加体分子モデルの自動生成、溶媒付加体分子モデルの自動生成プログラムを開発し、その半経験的分子軌道法に基づく分子の生成エネルギー分布から、実環境中で発生し得る分子種の種類と生成割合を推定できる体制が確立した。この成果に基づき、エレクトロスプレイイオン化(ESI)法におけるイオンの生成割合を定量的に予測する新たな速度論的モデルを構築し、未知化合物でかつ標準品のないような物質のマススペクトルシグナルの感度を推定する体制が整った。また、分子の衝突断面積に基づく精密な識別分析に供するため、分子力場に基づいて計算した分子構造ライブラリ全体にわたる熱力学的平均衝突断面積を決定することにも成功し、予備測定の結果との比較が可能となった。 実測CCS分布の決定に関しては、水田等の主要な農薬として知られるイミダクロプリド、ジノテフラン、エトフェンプロックス等の環境変化体の骨格構造を持つ低分子化合物のCCS分布測定を、またコントロール実験としてコンフォメーション揺らぎのほとんどない剛直な縮合炭化水素系化合物のCCS分布測定を行い、分布の幅や形状を比較検討した。両者の一致度からモデルの修正のための重要な知見を得た。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コンフォメーション分布の生成アルゴリズムについて、ディスタンスジオメトリ法、結合周りの回転自由度に基づく統計的生成法、遺伝的アルゴリズムの3通りの方法をプログラムし、それぞれについて実際に分布を形成してすべてのコンフォーマーについてTM法(トラジェクトリー法・衝突軌跡解析法)計算をして衝突断面積のコンフォーマー集団にわたる分布平均を計算することに成功した。得られた分布に関しては、およそ2万通りのコンフォーマーのすべてに渡って半経験的分子軌道法とDFT法(B3LYP/6-311++G(2d,p))によるエネルギー計算を行い、物性推定値のアンサンブル平均を得た結果、グローバルミニマムを得る方法では物性推定は不完全であることと同時に、アンサンブル平均が必ずしも時間平均(これは実測物性値に対応する)にも一致しないことを見いだしたことが重要である。現在は時間平均像を計算すべく、計画通りのアルゴリズムにより分子動力学的にコンホメーションの変化を追跡する研究に着手している。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後、分子動力学的にコンホメーションの変化を追跡しながら、衝突断面積の時間平均値を計算するプログラムを開発し、レナードジョーンズポテンシャルおよびドリフトガスとの四重極相互作用のパラメーターと実測値との相関から各パラメーターを最適化する研究へと移行する予定である。
|