2015 Fiscal Year Research-status Report
タンパク質量の均一化による微量タンパク質の網羅的解析
Project/Area Number |
15K13750
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
松本 桂彦 国立研究開発法人理化学研究所, 生命システム研究センター, 特別研究員 (60632859)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | プロテオミクス |
Outline of Annual Research Achievements |
細胞内のタンパク質量はタンパク質間で10,000倍以上の差があり、その量的ダイナミックレンジの大きさが現在のプロテオーム解析にとって大きな壁になっている。転写因子など、分子数は少ないが細胞の機能に大きな影響を与えるタンパク質も多くあり、これらも網羅的に解析することが今後のプロテオームには必要である。これには、質量分析計の高感度化とサンプル調整の両面からアプローチする必要がある。そこで、タンパク質量のダイナミックレンジを小さくするための手法の開発を目指した。まず、タンパク質を分離する手法が必要であるため、最も分離能が高い手法のひとつである、2次元電気泳動法を使用した。1次元目の電気泳動には、多くのタンパク質量を分離することができるアガーゲル(pH 3-10)を使用した。2次元目には10 %のSDS-PAGEを使用し、HEK293T細胞の細胞溶解液を分離し、2次元電気泳動の条件の検討を行った。 また、本研究で最も重要な転写メンブレンの検討を行った。転写によるタンパク質吸着量の検討、吸着タンパク質の回収の検討には1次元のSDS-PAGEを行ったサンプルを使用した。市販ガラスフィルターにシランカップリング剤でC4,C8,C18などの疎水基を反応させ、そのガラスフィルターにタンパク質を転写を行った。このとき、ガラスフィルターをCBB染色することでタンパク質の吸着を確認したが、ガラスフィルターには2~3mm以上の厚みがあるものしか市販されていなく、不透明であるためフィルター内部に固定されたタンパク質までを正確に定量することが不可能であった。そのため、より厚みの薄いガラス繊維フィルターの入手、または透明なゲル素材にタンパク質吸着分子を組みこんだ機能性ゲルの作成が必要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
HEK293T細胞の細胞溶解液を用い、2次元電気泳動による細胞内タンパク質の分離条件の検討を行った。1次元目の電気泳動には、多くのタンパク質量を分離することができるアガーゲル(pH 3-10)を使用し、2次元目には10 %のSDS-PAGEを使用した。さらに、グラジエントゲルを用いることで、より幅広いタンパク質を分離することも可能である。 また、タンパク質吸着素材として、ガラス繊維フィルターを使用した条件検討を行った。ガラス繊維フィルターには、シランカップリング剤を用いて疎水基(C4,C8,C18)を修飾し、機能化を行った。この時、シランカップリング剤濃度を0.1~10 %(90% エタノール中)と変化させ疎水基密度を変化させたが、いずれの濃度であってもタンパク質転写後のCBB染色に大きな差は見られなかった。これは、ガラス繊維フィルターが不透明であるため、フィルター表面へ非特異的に結合したタンパク質のみが検出されているためだと考えられる。今年度、使用したガラス繊維フィルターは、入手可能な市販品の中で最も薄いまたは表面が均一であるGEヘルスケアのGLASS MICROFIBER FILTERS 934-AH とGF/Aを使用したが、タンパク質量の状態を正確に知ることができないため、当初予定していたガラス繊維フィルターではこれ以上の条件検討は困難であり、実際の使用にも適さないと判断をした。そこで、透明性の高い機能性ゲル作成が必要である。
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Strategy for Future Research Activity |
始めにC4, C8, C18などのタンパク質と相互作用できる機能性分子を組みこんだアクリルアミドゲル、またはアガロースゲルを作成する。この時、これら疎水基をもつ試薬は水溶性が低いため、通常のアクリルアミドゲルやアガロースゲル作成方法では相分離してしまい、均一に機能化することは困難であることが予想される。このため、エタノールなどの水溶性の有機溶媒を一定量含む状態でゲル化を行い、その後、任意の転写バッファーに置き換えることが必要だと考えられる。そこで、この機能性ゲルの作成条件の検討を行う。その後、ゲルの厚みでタンパク質の吸着量をコントロールし、量の多いタンパク質の一部のみがゲル内に保持される条件を探索する。 これらの条件が整った後、2次元電気泳動による高分離した細胞内タンパク質を機能性ゲルでタンパク質量の多いものを少なくし、nanoLC/Orbitrap質量分析計を用いて、同定できるタンパク質数を比較する。この時、SILACシステムを利用し、一方のタンパク質にはC13、N15同位体アミノ酸(Lys,Arg)でラベル化を行った細胞溶解液を使用し、同時に測定することで、測定間の誤差を補正する。しかし、タンパク質量の補正を行っていない場合、多量のタンパク質(ペプチド)でイオンサプレッションによる目的ペプチドのイオン化阻害をする可能性があるため、混合比率の最適化なども行う。
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Causes of Carryover |
昨年度は、SILACシステムを利用した細胞培養を行わず、通常の培地で培養したHEK293T細胞を使用した実験にとどまっているためである。また、当初導入を予定していたラージゲル2次元電気泳動システムの導入を断念し、ミニゲルサイズの2次元電気泳動装置を導入した2点である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
昨年度、実験を行えなかったSILACシステムを利用したHEK293T細胞を用い、同位体アミノ酸を取り込んだ細胞を作成する。また、タンパク質吸着用の機能性ゲルを作成し、ゲル内に取り込まれたタンパク質をイメージングするためのゲル撮影装置などの機器購入を行う。
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