2015 Fiscal Year Research-status Report
氷の再結晶化を阻害する不凍タンパク質機能の定量的解明
Project/Area Number |
15K13760
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Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
津田 栄 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生物プロセス研究部門, 上級主任研究員 (70211381)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 水 / 氷結晶 / 熱ヒステリシス / 界面前進凍結濃縮 / 不凍蛋白質 / AFP / 分子構造 / 冷熱 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は不凍タンパク質(AFP)が発揮する「氷核の再結晶化を抑制する機能(Ice Recrystallization Inhibition, IRIと略)」の定量手法を検討し確立することである。負の温度下では氷を構成する無数の氷核がオストワルド・ライプニング又はLSWモデルと呼ばれるメカニズムで再結晶化すると考えられる。このため氷核を円板で近似したときの半径の三乗をr3、経過時間をt、再結晶化速度をKとしたr3=r3(0) + Ktの式により氷の画像(=無数の氷核が集合した画像)の経時変化が解析できる。ここで旧来のAFPのIRI機能評価方法(スプラットアッセイ)では30%スクロースが添加されているため、H27年度ではこれを含まないAFP水溶液のIRI活性の定量法を検討した。AFPのみを溶解した水を凍らせると、AFPが氷の結晶格子を構成する特定の水分子の組に結合する結果として、氷核は小さな針状に成形された。氷核が円板状にならず上式が使えないため、一定量の赤インクを滴下したAFP水溶液(色水)を凍結したときに観測されるAFPの凍結濃縮抑制効果(Freeze-Concentration Inhibition, FCI)をIRI活性とみなせるかを検討した。2枚のガラス板にU字ゴム板を挟んだサンプル容器の中に試料溶液を入れ、それを断熱材の中に埋めたものを汎用冷凍庫(-20℃)内に静置するFCI解析装置を考案した。この装置を冷凍庫内に静置すると試料溶液がAFPを含まないときはガラス板の一部下方に赤インク成分が濃縮した。一方、試料溶液がAFPを含むときには赤インクがガラス板の全体に分散した。この分散状態の違いから30%スクロースを含まないAFP水溶液のIRI活性を定量できる可能性が示唆された。関係する研究成果を論文1報、学会16件等で発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
30%スクロースを含まないときの不凍蛋白質(AFP)の氷核再結晶化抑制機能(Ice Recrystallization Inhibition, IRI)の定量法を考案し実験装置を作るに到った。ガラス板2枚、U字ゴム板1枚、クリップ複数個、小型断熱材2枚を使ったコンパクト(18 cm x 22 cm x 8 cm)な装置であるにも関わらずAFPの凍結濃縮抑制減現象を極めてよく再現しその定量を可能にした。氷結晶の画像解析からIRI活性を定量するまでの解析システムも良く確立された。更に、代表者が性能解析を進めていたAFPの中に、飛び抜けて高いIRI活性を示す種類があることが判明した。現在、その成果をインパクトの高い国際誌に発表すべく準備を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
H28年度では、30%スクロースを含むときの不凍蛋白質(AFP)の氷核再結晶化抑制機能(Ice Recrystallization Inhibition, IRI)の定量法を検討し実験と解析を行う。この条件下では氷核が円盤状に成形されるためオストワルド・ライプニング(LSWモデル)による氷核の再結晶化定量法を適用することが可能と考えられるためr3=r3(0) + Ktを用いて氷の画像(=無数の氷核が集合した画像)の経時変化を定量する予定である。低温域顕微鏡を用いて撮影した氷の画像(粒子状の氷核が集積した画像)を画像処理ソフト等を駆使して二値化し、Image-Jの粒径分布機能を利用することで時間tにおける氷核の平均半径rを算出する。更にそのような画像の経時変化を種類と濃度が異なる複数のAFP水溶液について取得することで、個々のAFPについて再結晶化速度Kを見積もることが可能と考えられる。当該実験を代表者らが近年発見した特異的機能をもつAFP試料について特に実施することによって、未知のAFPの性質を浮き彫りにすると同時に新たなAFP技術の開発に繋げられると考えている。また、この研究の中で見出された飛び抜けて高いIRI活性を示すAFPについても論文成果としてまとめる方針である。
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Causes of Carryover |
オープンアクセスジャーナルへの研究成果の発表がH27年度内に完了せずその出版にかかる研究費をH28年度に持ち越す必要が生じたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
オープンアクセスジャーナルにH28の研究論文を出版する為に使用する。
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