2016 Fiscal Year Research-status Report
強い酸化還元作用を持つ拡大ワイドバンドギャップ半導体光触媒の創製
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15K13763
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
齊藤 結花 学習院大学, 理学部, 教授 (90373307)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 光触媒 / 量子サイズ効果 / 共鳴レーリー散乱分光 / 半導体ナノ粒子 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では半導体結晶の量子サイズ効果の理論に基づき、既存の光触媒材料バンドギャップを拡張して強い酸化還元作用を発現すること、光触媒による水の分解反応を1ステップで行うことを目的とする。光触媒は光エネルギーを吸収して電子正孔対を形成し、有機物の分解や水素発生などの酸化還元反応を誘発する。バンドギャップの大きさは酸化または還元反応のエネルギーに直結するため、触媒機能発現に本質的な役割を果たす。ここでは(1)顕微共鳴レーリー散乱による単一ナノ粒子バンドギャップ測定技術を用いて、半導体量子サイズ効果の極限に現れる電子状態の挙動を実験的に検証することと、(2)既存の物質を利用した拡大ワイドバンドギャップ半導体光触媒の実現、という2つの実験を行なった。 ワイドギャップ半導体光触媒の多くは、荷電子帯はO2p軌道からなっていて3 V 付近にエネルギー順位を持つ。これは酸素発生電位に比べて十分に深いレベルに位置するが、伝導帯が水素生成順位 0V NHE以上の値を持たせると、バンドギャップが3 eV以上になってしまい紫外光で励起しなければならない。水の分解反応を可能にするには、価電子帯をできるだけ浅い位置に形成することが望ましく、かつ伝導体を 0V SHEより上に形成することが必要である。ここで、三酸化タングステンのようにバルクの状態で酸素発生順位が比較的浅くバンドギャップが3 eV 以下と小さい材料を候補にあげ、バンドギャップをわずかに広げ水素発生順位を超えるように誘導することを試みた。具体的には、溶液中でターゲット金属に532nmナノ秒レーザーを照射し、レーザーアブレーションによって酸化タングステンの微粒子化を行なった。作成したナノ粒子の顕微共鳴レーリー散乱測定を行い、バンドギャップの変化を追跡した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請者の所属が大阪大学から学習院大学へ異動になったため、実験環境を整備するまでに時間を要した。しかし、以下の2つの理由から概ね順調に進展していると考えている。 (1)半導体ナノ粒子の作製 学習院大学に所属を変更した後に、プラズマ物理分野の共同研究者に恵まれたことで、三酸化タングステン微粒子また、その他の半導体微粒子作成について有益な知見を得ることができた。具体的には、ナノ秒レーザーを溶液中に配置した金属ターゲットに照射して、アブレーションによって生じる微粒子を回収することができた。回収した粒子を原子間力顕微鏡で評価したところ、サイズのばらつきがあるものの数十ナノメートルを下回る構造も多くみられ、本手法が有効であるという手応えを得ている。 (2)共鳴レーリー散乱スペクトル測定 ナノ粒子のバンドギャップ評価に関しても進展が得られている。これまでのハロゲンランプを用いた暗視野顕微鏡にかわって、指向性が高くスペクトルに構造がないLDLS(Laser Drivne light souce)を導入した。その結果、これまではバックグランドの問題で、不明瞭になるケースが多かった共鳴レーリー散乱スペクトル測定を、正確かつ容易に行うことが可能になった。実験配置についても高NA照射に変えたことで、これまでよりも明瞭な暗視野像を得ることに成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)半導体ナノ粒子の作製条件の検討: 共鳴レーリー散乱分光の結果、三酸化タングステンの散乱ピークは現在のところ概ね450 nm付近に観測され、顕著なサイズ効果を観測は観測されていない。今年度からレーザーアブレーションに用いる532 nmナノ秒レーザーを新規に導入し、さらに微小な粒子を作成する予定である。 (2) 広帯域紫外顕微共鳴レーリー散乱分光によるバンドギャップ評価: 従来の共鳴レーリー散乱システムを改良する予定である。試料を倒立型顕微鏡上に配置し、LDLS(Laser-driven light source)紫外白色光源で斜方から光を入射し、暗視野照明とし散乱光成分のみを対物レンズで回収する。信号光は分光器のスリット上で結像し、分光器をとおしてCCDカメラで検出する。共鳴レーリー散乱スペクトルから粒子のバンドギャップに関する情報を、画像解析を行った暗視野像から粒子のサイズと形状を同時に求める。 (3)フォトルミネッセンスによる欠陥密度評価: 電子正孔対は粒子表面に存在する欠陥により再結合して失活するので、このとき生じるフォトルミネッセンスを利用して分光学的に表面欠陥密度を求めることができる。本申請では既存のシステムに加えて、500-700 nm 付近の可視-近赤外域におけるフォトルミネッセンスを観測する光学系を新たに追加する。 (4)バンドギャップ変化の計算による考察: クラスター構造をモデル系として、量子化学計算により半導体ナノ粒子のバンドギャップの変化を予想する。
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Causes of Carryover |
前年度末に購入する予定の試薬類があったが、新商品が出る可能性があったため、購入を次年度に持ち越したため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
前年度に購入する予定であった試薬類を購入し、引き続きレーザーアブレーション法による半導体ナノ粒子の作製に利用する予定である。
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Research Products
(5 results)