2015 Fiscal Year Research-status Report
主鎖の局所運動抑止を基盤とする全芳香族ポリマーの体積膨張率の制御と機能発現
Project/Area Number |
15K13782
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
安藤 慎治 東京工業大学, 理工学研究科, 教授 (00272667)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
石毛 亮平 東京工業大学, 理工学研究科, 助教 (20625264)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 低体積膨張材料 / 耐熱・絶縁性薄膜材料 / 局所運動 / 凝集構造 / 赤外光干渉スペクトル / 動的緩和 / 自由体積 |
Outline of Annual Research Achievements |
H27年度(初年度)は,高耐熱性ポリマーの体積膨張率(CVE)計測の精度向上と独自の設計指針に基づく超低CVEポリイミド(PI)の分子設計および熱膨張挙動の計測に注力した。 計画に従い,ファイバ型マルチチャンネル分光器およびフーリエ変換近赤外分光光度計を用いて、温度可変透過型光干渉スペクトル測定系を構築するとともに、スペクトルのシミュレーション技術を改良してポリイミド(PI)薄膜における膜厚の温度依存性を高精度で決定する分光的手法を構築した。本研究で用いた近赤外光 (λ=800~1800 nm) は,光透過性が高いため着色した薄膜も計測可能であり、また可視光に比べて波長が約2倍となることから、半導体絶縁膜(膜厚:15~50μm)に対応する高分子薄膜のCTEとCVEの計測精度が大幅に向上した。 次いで、PI主鎖の局所運動性を抑止する材料設計として、①高結晶化による「凝集構造制御」を検討した。剛直な主鎖をもつ半結晶性PIは、熱イミド化時の昇温速度により凝集状態の制御が可能であり、高温ホットプレートを用いた“超高速昇温”で、高結晶性のPI薄膜を得ることができた。PI分子鎖の凝集の程度は、X線回折(広角・視斜角入射)や屈折率測定、密度測定により定量的な評価を行った。また,PI主鎖の局所運動の評価は,DMA(動的機械分析)スペクトルにより行った。予測通り,高結晶性のPI薄膜において,既存のPIよりも顕著に小さなCVEが観測された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記の①と並行して、既存の剛直な構造を有するPI群に加え、主鎖に ② m-フェニレン構造、③ 分子内・分子間水素結合、④ 屈曲性脂環構造をそれぞれ導入した新規PIを合成し、その熱膨張挙動とCVE値を詳細に解析した。広角X線回折から、屈曲性PI薄膜はほぼ非晶質であり、その凝集状態は結晶性PIに比べてかなり疎であるにもかかわらず、CVEが結晶性PIに比べて低下するという興味深い結果が得られ,CVEの値も目標値(<100 ppm/K)に近づく114 ppm/Kであった。 m-フェニレン構造を有する屈曲性高分子が小さな体積膨張を示す現象は、これまで観測されたことがないため,次年度は新たにこの機構の解明に取り組む。一方,分子内・分子間水素結合(アミド結合間や水酸基-カルボニル基間)の形成や屈曲性脂環構造の導入はCVE抑制には効果的であったが,その効果は限定的であった。さらに詳細な検討が必要である。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、前年度の①~④の検討を継続するとともに、得られた知見を基盤として、超低体積熱膨張係数(CVE < 90 ppm/K)を有する新規の耐熱・絶縁性ポリマー薄膜材の分子設計を行う。密度汎関数法(DFT)計算により、結合二面角の回転障壁や分子分極率、IRスペクトルやvan der Waals 体積を事前に予測することにより、分子設計の確度を格段に高めることができる。なお、②または③と④を組み合せた分子設計も検討する。 次いで、上記の指針に基づいて合成・調製した新規PI群のCVE測定と各種物性評価(熱物性、動的粘弾性、絶縁性、広角X線)を行う。特に、④の脂環式PIについてはその特異な構造から高光透明性と低誘電率(脂環式酸無水物による電荷移動相互作用の抑止と分極率の低下)が期待されることから、得られた薄膜の光学物性(光透過性、屈折率、複屈折、熱光学係数)と誘電特性(100 kHz~1 GHz)の評価を行う。 上記の検討により,もし1つのポリマー材料で低CVE, 高透明性, 低複屈折, 低誘電率が同時に達成できれば、半導体回路に加え、光導波回路(光集積回路)を組み合わせた次世代光電子混載多層配線基板の光配線+絶縁材料として用途が大きく拡大すると考えられる。
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Causes of Carryover |
H27年度に「近赤外ファイバ型マルチチャンネル分光器」を導入予定であったが,ポリイミド薄膜の分光測定を進めたところ,研究室で保有していた近赤外分光光度計とファイバ型分光器が使用可能であることが明らかとなった.解析ソフトウェアの改良を行い,分光特性と測定精度を見極めるために装置の購入を延期した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
H28年度はポリイミド薄膜の体積膨張率計測の更なる高精度化のために,高感度ファイバ型マルチチャンネル分光器(浜松ホトニクス社製)を導入予定である。
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