2015 Fiscal Year Research-status Report
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15K13789
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
田中 敬二 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20325509)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
春藤 淳臣 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (40585915)
犬束 学 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 研究員 (70735852)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 高分子構造・物性 / 構造・機能材料 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、粒子追跡法に基づき、エポキシ樹脂の硬化過程における局所領域の粘度変化を座標および時間の関数として評価し、四次元マッピングを検討する。ここで、測定する領域の空間スケールを様々に変化させることで、異なる長さスケールの不均一性を明らかにする。また、固化後の応力分布をメカノクロミズム分子からの蛍光発光により可視化し、応力分布の発現機構を明らかにする。さらには、エポキシ樹脂で接着したポリエチレンテレフタラートフィルムの剥離試験における破壊挙動の観察・解析を行い、上記知見と比較、検討することを目的とする。平成27年度に実施した具体的な項目と主な研究成果を以下にまとめる。
(1)粒子追跡法では、粒子サイズを変えることによってそのサイズに応じたスケールでの局所物性評価が可能である。サイズの小さな粒子の熱運動を精度よく検出するため、倒立型顕微鏡に蛍光ユニットと高感度カメラを新たにセットアップした。その結果、直径が50 nm程度の粒子の熱運動、ひいては局所粘度を評価できることを確認した。 (2)エポキシ樹脂は、主剤となるエポキシ基を両端にもつエポキシ化合物と、硬化剤と呼ばれるアミン化合物の反応・架橋によって得られる。エポキシ化合物とアミン化合物の反応過程を赤外分光測定に基づき評価した。その結果、時間の経過に伴い三級アミンの濃度が増加し、数十時間後に一定値に到達した。また、レオメータに基づき粘弾性関数を評価した結果、その静置時間においても混合物は巨視的に流動しうることが確認された。これらの結果は、系中には架橋によって形成された網目と未架橋の領域が存在することを示唆している。 (3)エポキシ化合物とアミン化合物の混合物の硬化過程における局所物性を評価した。その結果、硬化過程において空間的な不均一性が発現すること、ならびに不均一性の長さスケールが硬化反応の進行に伴い減少することを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の目的・実施項目として、初年度に (1) 粒子追跡法に用いる装置の改良、(2) エポキシ硬化過程における反応率と巨視的な粘弾性関数の相関、および (3) エポキシ硬化過程における不均一性とその長さスケールの解析を設定した。 平成27年度は当初の計画に従って、実施項目(1) 装置の改良を行い、直径50 nmの粒子の熱運動を検出することに成功した。また、実施項目 (2) を実施し、エポキシ硬化反応系中には、架橋によって形成された網目と未架橋の領域が存在することを見出した。さらには、実施項目 (3) を実施し、エポキシ硬化過程において空間的な不均一性が発現すること、ならびに不均一性の長さスケールは硬化反応の進行に伴い減少することを初めて明らかにした。 当初の計画通りに研究を進め、期待を上回る結果・知見を得ることができた。とくに、エポキシ硬化過程における不均一性の検出とその長さスケールの減少に関する報告はこれまで皆無である。研究成果の一部は学会にて発表済みであり、現在、学術論文として投稿準備中である。以上の理由により、順調に研究が進展したと判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度の結果・知見を踏まえて、下記を重点的に実施する予定である。 硬化したエポキシ樹脂の残留応力の可視化を検討する。可視化の手法として、エポキシ樹脂の網目構造へのメカノクロミズム分子の導入、あるいは偏光顕微鏡による複屈折の観察を用いる。粒子追跡法に基づき評価した硬化過程における不均一性と比較・検討し、不均一な硬化反応が最終的な樹脂の応力分布に与える影響を明らかにする。エポキシ樹脂の接着強度は、引張りせん断接着強さ試験に基づき評価する。具体的には、透明性を有するポリエチレンテレフタラートフィルムをエポキシ樹脂で挟み込むように接着・硬化させた後、引張り試験機で接着面に対して平行方向に引っ張る。また、エポキシ樹脂の剥離挙動を荷電結合素子カメラで観察し、剥離過程における破壊様式の分布とその変化を可視化する。残留応力の分布と接着強度、また、破壊様式の分布を比較・検討し、樹脂の不均一性が接着強度に与える影響を明らかにする。
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