2015 Fiscal Year Research-status Report
メガヘルツ超音波素子を用いた平均流のない擬一様等方性乱流場の生成
Project/Area Number |
15K13867
|
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
長田 孝二 名古屋大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50274501)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 流体工学 / 乱流 / 超音波 / 格子乱流 / エネルギーカスケード |
Outline of Annual Research Achievements |
水中にメガヘルツ超音波を照射した場合に発生する定常流(音響流)の基礎特性を明らかにするための実験装置を製作した.アクリル製の水槽の大きさは底面積が190 mm×220 mm,高さが500 mmである.底面部には超音波振動板(カイジョー7857S型)が取り付けられている.超音波が発振されるのは中央の136 mm×163 mmの領域である.メガヘルツ超音波発振器(カイジョーハイメガソニック型)により周波数0.95 MHzの超音波を振動板から鉛直上方に照射した.発振器の出力は150 Wに設定した.これは,出力が大きいほど強い音響流が生成されるものの,それと共に起こりやすくなるキャビテーション(気泡の生成)の影響を低減するためである.粒子画像流速測定法(PIV)を用いて速度二成分を測定した.光源としてシート状のNd; Yagレーザを水槽壁面から照射し,トレーサ粒子画像をハイスピードビデオカメラにより撮影した.測定位置は底面部から距離60 mm~140 mmとした.乱流格子を振動板(水槽底面部)から50 mmの位置に設置し,格子乱流場を形成させた.なお,格子のサイズは格子間隔M=20 mm,格子幅 4mm(遮蔽率36%)である.実験の結果,鉛直方向に超音波振動面全体から音響流が形成されること,その時間平均流速は約50 mm/sであることが明らかになった.また,振動板上では水平方向に対してほぼ一様であった.一方,速度変動強度に関しては,水平方向速度変動強度は一般的な格子乱流場と同程度の値を示したが,鉛直(主流)方向速度変動強度は水平方向速度変動強度の2倍程度の値となり,通常(1.2~1.4倍程度)よりも大きな値を示した.実際にこのような場が形成されているのか,超音波の存在により通常の水路実験では存在しない何らかの要因で計測が正しくできていないのかを,今後の研究で明らかにする必要がある.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画通り,超高周波(メガヘルツ)超音波振動素子と格子を用いた擬一様等方性乱流を生成するための実験装置を設計・製作した.その結果,実績で示した通り,メガヘルツ超音波により駆動される音響流を利用した格子乱流場を水槽内に形成させることに成功した.また,当初計画通り,発生した乱流場のPIV計測を行った.その結果,PIVによる速度場計測に問題がある可能性があることが示唆された.この検証を慎重に行う必要があるため,現在のところ学会等での成果発表を行うには至っていないが,本研究で対象としている流れ場は,これまで誰も調べたことがない場であり,得られる知見は斬新かつ有益なものとなる. 以上のように,当初計画通りに実験装置の設計製作と流動場計測までを終了させた.よって,今後の研究課題は見つかったものの,現在までの進捗状況はおおむね順調に進展していると判断される.
|
Strategy for Future Research Activity |
次年度は以下の研究を行う. ①まずは計測データの妥当性を明らかにすることが必要となる.測定が正しくできていない原因として考えられるのは,超音波が形成する定在波によってトレーサ粒子がトラップされ激しく振動したりすることや,キャビテーション気泡に起因するエラー信号などが考えられる.ただし,音響流は超音波エネルギの主流方向に対する減衰を基にして発生するため,通常の水路流れとは異なり,主流方向に対する何らかの流れ(乱れ)が生み出される可能性は十分にある.このこともあり,今後は格子からより離れた点における計測をするなどして,主流方向に対する流れ場の特性を詳しく明らかにする必要がある.また,特に気泡の影響を明らかにする場合には,ローダミンBを吹き付けたトレーサ粒子を使用し,カメラレンズに光学ハイパスフィルタを取りつけることで,流体運動のみを取り出す. ②①の結果にもよるが,いずれにせよ振動板が一枚の場合には強い乱流場を形成させることは困難であると考えられるため,振動板を対向させるように配置し,二面から音響流を発生させ衝突させることで,より強い乱流場を生み出すことを試みる.2面の間隔は①の実験結果により決定する. ③形成された場における等方性,一様性を明らかにするとともに,乱流の代表長さスケールであるインテグラルスケール,マイクロスケール,また乱流レイノルズ数などを計算し,形成された乱流場の特性を明らかにする. ④直径が200μm~2mm程度の粒子を混入し,粒子が乱流場に及ぼす影響(統計量の算出)を明らかにする.またこれが可能になれば,通常の水路実験では不可能な乱流中での粒子運動のラグランジュ的追跡が可能になる.なおこの場合にも,トレーサ粒子にはローダミンBを吹き付けたポリスチレン粒子を用いる.
|
Causes of Carryover |
当初,旅費として60万円を計上していたが,計測データの妥当性を慎重に検討する必要があったため成果発表を見合わせた.そのため,実際の旅費は資料収集のための約13万円に留まった.「その他」でも学会参加費の支出を見込んで20万円を計上していたが,上記理由により実際に使用したのは4万円弱であった.これらの理由により次年度繰越金が生じた.
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
計測データの妥当性の検証が終われば、国内外の学会において成果を公表する.そのための旅費および学会参加費として用いる.当初予算でも二年目に旅費は計上しているが,初年度発表できなかったこともあり,予定よりも多くの学会で成果を公表する.また,初年度の実験で振動版1枚では強い一様等方性乱流場を生成することが難しいことがわかったので,初年度および次年度の計測結果に基づいて対向式の実験装置を新たに設計・製作する.このために費用が必要である.さらに,最終的な成果を国際誌に投稿するための投稿費用にも用いる.
|