2015 Fiscal Year Research-status Report
モティリティシステムにおけるマイクロ・ナノ流動の巨視的運動制御機構の解明
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15K13875
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Research Institution | Akita Prefectural University |
Principal Investigator |
須藤 誠一 秋田県立大学, システム科学技術学部, 教授 (90006198)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
矢野 哲也 秋田県立大学, システム科学技術学部, 助教 (70404853)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 生物流体力学 / 植物流体力学 / 遊泳細毛 / 二叉跳躍器 / トビムシ / 頭花運動 / 花弁細胞形状 / 磁性流体マイクロデバイス |
Outline of Annual Research Achievements |
微小な節足動物や雑草などは,これらの生命を脅かすような危機的状況下におかれた場合に特異な運動性(モティリティ)を示す。平成27年度では,潮間帯に生息する体長が8mm程度のハマトビムシを取り上げ,各体節に付属する運動器官としての遊泳肢の微視的観点からの形態構造と機能の関係を明らかにした。すなわち,これまでに知られていなかった遊泳肢の折り畳み構造と能動的肢運動が明らかとなった。さらに,遊泳の際に重要となる抗力生成のための細毛構造の規則性についても明らかになった。 前述のハマトビムシに続く次の段階として,さらに体長が小さく(2mm以下),水面と陸上を行き来している粘管目トビムシを取り上げ,陸上における跳躍および水上における跳躍が体長の数十倍から百倍程度の距離を瞬時に移動する能力を有することを解析によって明らかにし,さらに高さ情報の得られるレーザ顕微鏡によって,跳躍器の微細な構造を明らかにし,形態構造と運動機能の関連性を明らかにした。さらに,その微細構造が,流体力学的特性を最大限に発揮することをつきとめた。 タンポポの頭花がモティリティを示すことから,頭花を構成する花弁表面細胞のレーザ顕微鏡による微視的その場観察を行い,花弁細胞内の微小な流体流動が頭花運動を引き起こすことを明らかにし,定量的に細胞形状の開花時および閉花時における時間変化を計測し,植物流体力学的な考察を行った。 微小な節足動物の特異なモティリティおよびタンポポの頭花に観察されるモティリティの解析によって得られた成果を,人工物で効果的に再現する目的で,磁場に応答する磁性流体の微少量と比較的強さの弱い交流磁場を利用してマイクロアクチュエータを幾つか試作した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度の研究実施計画であげた3項目,すなわち(1)微小な節足動物の遊泳・跳躍・飛行解析および運動器官のレーザ顕微鏡計測,(2)モティリティ頭花を構成する花弁表面細胞形状計測と細胞内ナノ流動の単位時間あたりの流量産出,(3)微小な節足動物の運動器官使用時におけるマイクロ流動場の計測,のそれぞれの項目に関して,当初目標通りに研究計画を遂行した。 その結果,研究実績の概要に記述したように,潮間帯に生息する陸生のハマトビムシの水中での遊泳挙動解析から,遊泳肢の微視的計測による力学的細毛構造の抗力増大・抗力減少のための周期的運動と細毛構造の規則性,および遊泳における身体全体の抗力低減姿勢と遊泳メカニズムとの関連性を明らかにした(項目1に関連)。特に,ハマトビムシに関しては,遊泳肢に関してこれまで全く不明であった形態構造や二叉部分の動きに関する新しい発見があった。また,開閉運動を行うタンポポの頭花のその場観察による表面細胞形状計測とその工学的解析を行い,時系列での細胞体積の変化と表面形状変化を明らかにした(項目2に関連)。さらに,微小な水上性トビムシの水面上での跳躍解析と陸上での跳躍解析の比較を行い,跳躍器の形態構造の機能を明瞭にした(項目3に関連)。 以上のような計画遂行から,危機的状況下で示す小さな節足動物や日本のどこにでも生えている植物の特異な運動性(モティリティ)が定量的に明らかになったことから,それらの微小振動に基づくメカニズムをマイクロアクチュエータに応用し,その試作にまで計画を進めた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は,平成27年度の計画遂行において不足する部分を洗い出し,実験および解析を進めると同時に,計画遂行において新たに見出されたこれまで予想もしていなかった課題に取り組み,次の大きな研究プロジェクトの芽を見出し,将来につなげたい。 また,平成27年度の研究計画の遂行によって得られた微小な生物の仕組みに関するさまざまな成果を,人工物へ応用(バイオミメティクス)するための計画を遂行する。すなわち,ナノ・マイクロ流動によるモティリティ原理を利用したマイクロデバイスの試作および開発を行う。 既に,平成27年度に試作したマイクロバイス(磁場に対して応答する微少量の磁性流体と小さな永久磁石および外部交流磁場システムを用いた小さなデバイス)もあるため,その性能や外部磁場の周波数特性・駆動特性などを詳細に調べる。生物に観察されるモティリティ・システムは極めて柔軟性に富むため,開発を目指しているマイクロシステムに関してもソフトな特性を発揮するデバイスを考案・試作する(生物模倣デバイス)。さらに,人工システムの特性試験によって得られる成果を再度,先の生物モティリティ・システムの解析研究にフィードバックすることにより,研究計画を充実させ,優れた研究成果の獲得を目指す。
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Causes of Carryover |
研究計画調書を作成した時点から変更して経費を使用した理由は,大別すると以下の2点があげられる。一つは,研究計画申請時の経費から大きく減額されて交付され,当初の希望した機器を購入した場合,それだけで平成27年度の交付額を占めてしまう。第2点は,研究代表者が平成27度末で所属機関の定年を迎えるため,その先の研究計画の遂行に不明な点が存在していた。現在は,特別研究員として所属機関で研究を継続できるような立場ではあるが,所属機関からの研究費の交付はない状況である。その状況を予測して,平成28度の計画の遂行のために,このような対応を採らざるを得なかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度の当該研究の計画はほぼ順調に進んできていることから,平成28年度の計画遂行においても,生物のモティリティ・システムに倣うマイクロデバイスなどの特性試験は確実に行う予定である。そのため,研究遂行において,どうしても必要となる機器などに関しては,比較的短い使用期間での一時的なリースによる計測や実験データ取得で対応することを計画している。その他,成果の発表を広く行うために海外での伝統のある国際会議への出席を積極的に行い,国内での学術活動に関しても論文発表・論文執筆を積極的に進める。
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