2015 Fiscal Year Research-status Report
エクセルギー再生産を実現する電気化学反応系の熱力学的探索と実証
Project/Area Number |
15K13886
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
津島 将司 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (30323794)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鈴木 崇弘 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 特任助教 (90711630)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | エクセルギー / 電気化学反応 / 鉛蓄電池 / 反応熱 / 自由エネルギー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では,自発的に進行して,かつ,|ΔG|>|ΔH|となる電気化学反応系に着目し,実作動条件下でのエネルギーの高質化,すなわち「エクセルギー再生産」を実証する.特に,負極が鉛(Pb),正極が二酸化鉛(PbO2)の電気化学反応系について温度制御された実験系を構築し,実デバイスとしてのΔG,ΔH,ΔSを評価し,熱エネルギー収支を明らかにする.その上で,これらの熱力学的状態量の影響因子について検討を行い,「エクセルギー再生産型電気化学反応デバイス」の実現を先導することを目的としている.これまでに,コインセル,ラミネートセル,ビーカーセルを試作し,充放電挙動についての検討を行った.恒温槽内の温度制御された条件下で充放電反応を行う電気化学計測系を構築し,開回路法を用いてΔG,ΔH,ΔSを評価するための実験解析手法を確立した.その際,電池内電極温度については,電池材料の熱物性値と電池表面温度にもとづき算出する手法を構築することで,熱力学的状態量の測定精度の向上を図った.その結果,実用的に用いられる鉛蓄電池電極から構築した電気化学反応系の放電反応において,|ΔG |>|ΔH |となることを明らかにした.さらに,充電状態が異なる条件における熱力学的状態量(ΔG,ΔH,ΔS)の測定を実施し,充電直後においては,エントロピー変化が負の値を示し,その後の放電過程においては,エントロピー変化が正の値を示すことを明らかにした.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は,電気化学反応系において開回路法を用いてΔG,ΔH,ΔSを評価するための実験系ならびに解析手法の構築を行った.恒温槽内の温度制御された条件下で充放電反応を行う電気化学計測系を構築し,負極がPb,正極がPbO2の鉛蓄電池系へと適用した.反応進行度の異なる鉛蓄電池系に対して,開回路電圧とその温度依存性を計測することで,反応進行度に応じた熱力学的状態量ΔG,ΔH,ΔSを導出することを可能とした.その際,電池内電極温度については,電池材料の熱物性値と電池表面温度にもとづき算出する手法を構築することで,熱力学的状態量の測定精度の向上を図った.その結果,実用的に用いられる鉛蓄電池電極から構築した電気化学反応系の放電反応において,|ΔG|>|ΔH|となることを明らかにした.さらに,充電直後においては,エントロピー変化が負の値を示し,その後の放電過程においては,エントロピー変化が正の値を示すことを明らかにした.
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究で,鉛蓄電池電極から構築した電気化学反応系の放電反応において,|ΔG|>|ΔH|となることを実証することができた.加えて,充電直後においては,エントロピー変化が負の値を示し,その後の放電過程においては,エントロピー変化が正の値を示すことを実験的に明らかにした.しかしながら,これらの電気化学反応系におけるエントロピー変化の発現機構は明らかではない.エントロピー変化は,電極内の原子配置と振動の自由度の変化に加えて,溶液内の鉛イオンの溶解析出も寄与すると考えられる.今後は,電気化学反応系のエントロピー変化の発現機構を基礎的に明らかにするために,電極の原子配置や溶液状態が系のエントロピー変化に及ぼす影響について検討を行う.原子配置については,分子シミュレーションなどの計算科学的手法の適用を検討し,溶液状態については,溶解析出を伴わないより基礎的な電気化学反応系に着目して検討を進める.
|
Causes of Carryover |
熱力学的状態量測定のための鉛蓄電池実験系の構築において,コインセル,ラミネートセル,ビーカーセルを試作し,それぞれの充放電挙動についての検討を行った.その結果,市販の鉛蓄電池に使用されている電池材料を用いて,安定かつ安価な電気化学反応系が構築できることを見出した.その結果,当初予定していた実験系構築のための費用が抑制された.その一方で,研究の進展に伴い,次年度に計算科学的手法を導入して検討を進める必要があることが明らかになった.加えて,溶解析出を伴わない基礎的な電気化学反応系における検討も必要であることから,これらの研究を次年度に円滑に遂行するために,初年度の予算を繰り越して使用するのがよいと判断した.
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は,初年度の研究成果を受けて,電気化学反応系におけるエントロピー変化の発現機構を明らかにするための研究を遂行する.その際,電極の原子配置や溶液状態が系のエントロピー変化に及ぼす影響について検討を行うために計算科学的手法を適用する.そのための計算環境の整備のための費用として使用する.加えて,溶解析出を伴わない電気化学反応系における熱力学的状態量測定の実験系構築のための費用として使用する.
|