2015 Fiscal Year Research-status Report
非共溶性混合媒体の核沸騰による飛躍的冷却性能向上への挑戦
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15K13887
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
大田 治彦 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50150503)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 熱工学 / 沸騰 / 高性能冷却 / 非共溶性混合媒体 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度に実施した本研究に関する実験は大きく分けて3つより構成されている。非共溶性混合媒体(FC72/Water)を用いた「プール沸騰実験」, 「円管流路による強制流動沸騰実験」, 「狭隘流路を用いた強制流動沸騰実験」である。 ①プール沸騰の実験において、サブクール沸騰が実現していることを確認した。非共溶性混合媒体の沸騰では高沸点低密度媒体にかかるサブクール度が大きいほど限界熱流束は大きくなる。一方で実際の冷却を考えた時に重要となる伝熱面温度は、非共用性混合媒体のそれは各成分媒体単成分の間の値となり、高沸点低密度媒体にかかるサブクール度が大きい場合においても伝熱面温度が非常に高くなる。そこで低沸点高密度媒体に対しても高いサブクール度となるような非共溶性混合媒体の組み合わせを見出して、その欠点である限界熱流束の低下を抑えることを考案した。 ②加熱区間に円管流路を用いた実験では、内径7mmの管内に非共溶性混合媒体混合を流し実験を行った。それぞれの流量割合と混合媒体の全流量を最適化することにより、含まれる媒体が単成分の場合と比較して熱伝達特性に優れた熱流束領域が存在することが明らかとなった。 ③優れた熱伝達性能を持つとされる狭隘流路を用いた実験では、プール沸騰および円管と同様に、Water単成分と比較して伝熱促進効果が観察された。低熱流束条件では、FC72の流量割合が大きいほど良好な熱伝達特性を示すことを確認した。一方、高熱流束域ではFC72の沸騰による急激な気泡成長に起因する流動不安定や、伝熱面上のWater液膜がFC72 蒸気相からせん断力を受けることで発生する液膜破断により伝熱劣化が生じることが判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
①プール沸騰の実験において、低沸点媒体の液位が非常に小さい場合、限界熱流束は各成分単成分の場合に比べて非常に高くなるが、伝熱面上2mm、20mm、80mm の液体温度を計測したところ、伝熱面から離れるほど液体温度は高くなり、発生した気泡の凝縮による潜熱の放出が確認できた。Hansenの溶解度パラメータを用いて低沸点媒体FC72に対して比較的高いサブクール度がかかる非共溶性混合媒体の組み合わせであるFC72/ethanol、FC72/methanolについて実験を行ったところ、FC72/methanol は比較的良好な熱伝達特性を有することが判明した。 ②円管流路における実験では、非共溶性混合媒体としてFC72/Water を使用した。全流量が大きい条件(0.7~1.0L/min)において、低沸点媒体の沸騰が激しくなると、混合媒体特有の沸騰現象が生じることが明らかとなった。この場合にはポンプによる流動安定性が失われることから、高流量時のデータ数は多く取得することができなかった。しかし、低流量の条件(0.3~0.6 L/min)では再現性がある多くのデータを取得することができた。プール沸騰における実験結果との比較も行い、低沸点媒体の流量割合が小さい時に、混合媒体が良好な熱伝達特性を示すことが判明した。沸騰時の流動状態を高速度カメラで観察した。これにより、熱伝達特性が良好な条件と劣化している条件での流動形態および界面挙動に大きな差があることが分かった。 ③狭隘流路を用いた実験では、全流量0.4L/min、0.5L/minそれぞれにおいてFC72とWaterの流量割合を変化させ、熱伝達データを取得した。狭隘流路特有の現象である扁平気泡の急激な生成とそれに付随する流動不安定を高速度カメラで撮影し、高熱流束域で液膜破断によって伝熱劣化が生じるメカニズムを観察することに成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
①プール沸騰実験において、FC72/ethanol、FC72/methanol 以外の非共溶性混合媒体の組み合わせを見出して実験を行う。特に実際の冷却機器を想定した場合、発熱面が垂直壁であるものも想定される。この場合両方の媒体を伝熱面に接触させる事が可能であり、これまでは低沸点媒体をFC72として高沸点媒体の飽和温度が低いものを調査したが、FC72のかわりに蒸気圧が高く密度が低い低沸点媒体を見出し、高沸点媒体が下になる混合媒体の組み合わせも考えられる。この組み合わせの混合媒体では上部の低沸点媒体が沸騰の主媒体となり、単成分媒体と比べて低沸点媒体にサブクール度がかかるためにより良好な熱伝達特性が得られると考えられる。 ②円管流路における実験では、熱伝達特性の向上に対してどの物性の寄与が大きいのかを明らかにするため、沸点と密度の値の差が近い媒体を混合させ試験媒体として実験を行う。沸騰時の流動形態の細分化および、いくつかの混合媒体に対して、伝熱面温度が上昇してから低沸点媒体が沸騰するまでの状況について調べる。高流量時の試験データを正確に取得するため、実験装置に用いるポンプの性能を見直し、実験装置の配管等も含めた改良を行う。 ③現在、狭隘流路では間隙幅を2mmに設定して実験を行っている。間隙幅の大きさは気泡の扁平度合や沸騰時の流動様相に影響を与えるパラメータであるが、非共溶性混合媒体を用いた強制流動沸騰においてより最適な流路形状を見出すため、この値を変化させて新たな実験を行う予定である。また、新たな流量範囲で実験を行い、熱伝達挙動および流動様式の更なる知見を得る。
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Causes of Carryover |
交付申請時の使用内訳額で、物品費1,150,000円、旅費200,000円のうち使用額は無く、他費目とあわせて1,364,000円の残額が生じている。これは、プール、円管および狭隘流路を用いた全ての実験において、非共溶性混合媒体の存在比率が熱伝達特性に与える影響を調査したため、既存の実験装置で実験実施が可能であったことが挙げられる。データ計測や流動様式の観察等には現有のデータロガーや高速度カメラを使用したため、それらの物品に係る費用が発生していないのも理由の一つである。次年度は、強制流動沸騰試験において新たな流量における知見を得るためのポンプの改良に、繰越した費用を充てるとともに、圧力損失低減に向けた配管の改修も行う予定である。 旅費の使用額が発生していないのは、関連研究の発表や調査に際し、適用が可能な運営交付金などから費用を充当したためである。次年度に海外も含めて発表する予定である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記理由を踏まえ、平成28年度は以下の予算使用計画で進める予定である。尚、※印は繰越額(計:1,364,000円)を表す。 物品費(2,300,000円, うち※1,150,000円)は、主に試験装置の製作、補修および調整費(1,000,000円, うち※1,000,000円)とし、他、配管材料、試験液体、カートリッジヒータ、熱電対等の消耗品(1,300,000円, うち※150,000円)とする。国内外の学会発表のための旅費(500,000円, うち※200,000円)を、国内旅費として 100,000円(うち※100,000円)、外国旅費として 400,000円(うち※100,000円)を使用する。人件費・謝金として計上するものは無い(0円)。その他、会議参加登録費用等として 64,000円(うち※14,000円)を使用する予定である。
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