2015 Fiscal Year Research-status Report
磁場空間形成による支持剛性の無限小化に基づいた磁気浮上技術の確立と応用展開
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15K13925
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
大路 貴久 富山大学, 大学院理工学研究部(工学), 教授 (30334709)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 磁気浮上 / 支持剛性 / 永久磁石 / 反発型 / 極低剛性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本申請は,支持剛性が無限小となる磁気浮上状態を確立し,この状態を適用した実機の開発と性能評価を行うことを目的としている。平成27年度は,極低剛性化のための磁場空間の形成と,それに基づく磁気浮上装置の設計・開発,基本性能評価を実施した。 極低剛性化のための磁場空間形成について,同寸法のNd系リング永久磁石PM1, PM2(54mm×38mm×5mm)を対面同極で配置し,浮上磁石の自重と反発力が平衡となる位置での支持状態を基本とし,この位置からの各方向の剛性を調査した。当初は,上下方向の並進剛性が小さければ,Yonnet剛性定理により水平方向の並進剛性も小さく,水平方向を僅かな力で能動制御すればよいと考えていた。しかし実際は,浮上磁石PM1に対し,並進運動と水平方向軸への回転運動が混在し,回転運動が優位に働いた。そこで新たにNd系リング永久磁石PMm(26mm×20mm×6mm)を下部リング磁石PM2と同極方向で適切な位置に挿入することで回転運動が除去された。この理由を明らかにするため,リング永久磁石を円形電流対で代替した磁場分布の理論解析手法を確立し,支持剛性を評価した。この結果,浮上磁石PM1には水平方向軸に対し極めて小さい正の回転剛性(約0.52mNm/deg)を確認した。浮上磁石PM1の水平移動制御用としてPM1と同一平面に空芯コイルを4個配置した磁気浮上装置を製作した。 また,2個のNd系リング磁石PM1, PM2では,水平方向回りの回転運動が優位であった。空芯コイルを使用しながら回転運動を積極的に能動制御するには,空芯コイルの設置位置が浮上磁石PM1のリング下部とする必要がある。しかし,下部リング磁石PM2が存在するため空芯コイルのスペースがない。そこでリング磁石PM2に4個の空芯コイルを直接巻く新たな構造を有する磁気浮上装置を発案し,現在製作過程である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度は,極低剛性化のための磁場空間形成と磁気浮上装置の設計・開発,基本性能評価を予定していた。浮上磁石PM1と下部リング磁石PM2を基本構成とし,それらに作用する支持剛性とその無限小化について研究を進める中で,リング磁石PMm追加による浮上磁石PM1の運動方向の分離という新たな知見があった。これに対し,磁場分布の理論解析手法を提案し,FEM解析および静的な浮上力測定により理論解析の有効性を確認し,かつ運動方向の分離独立が可能であることを証明した。また,新アイデアとして,下部リング磁石PM2に制御用空芯コイルを直接設置する構造を発案し,この構造を有する磁気浮上装置を製作している。新知見,新アイデアによる当初予定からのずれが生じたが,2種類の磁気浮上装置のプロトタイプが完成しつつある状態であり,概ね予定通りに推移していると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
2種類の磁気浮上装置の製作と非接触浮上制御を実施する。一般的な磁気浮上装置に比べ磁気支持剛性が極めて低いため,それに適切な制御回路,補償器が必要になる可能性が高い。センシング部分にも光学式,電磁式等のセンサ選定にも注意が必要である。また,磁気浮上装置本体の製作のみならず,浮上状態に影響を与える要因を突き止め,それらを排除するための工夫が必要となる。具体的には磁気浮上装置に混入する振動の除振台による除去,電磁シールド容器による空気流動および電磁ノイズ除去を実施する。その後,当初予定である,高感度な微振動検出器の実現に向けた性能評価,および,制御入力変動分が極めて小さく省電力動作が可能な多自由度運動テーブルへの適用可能性調査を実施する。 高感度微振動検出器については,まず,現有のDSP,MATLAB/Simulinkを使用し,補償器設計により浮上安定化を図る。さらに,A/D, D/A部等で生じるディジタルノイズを排除するため,アナログ回路による能動制御も実施する。検出性能評価項目として,出力感度(加速度~変位),振動入力方向の同定等がある。 多自由度運動テーブルについては,同様にまず,まずDSP,MATLAB/Simulinkを使用し,補償器設計により安定化を図る。空芯コイル構造が特殊であるため,水平方向軸回りの回転に対する能動安定化とともに,揺動運動,垂直軸回りの回転運動などを外部指令を与えることで実現する。
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Causes of Carryover |
当初予定していた極低剛性化のための磁場空間形成に対し,運動方向の分離方法が新知見として得られ,理論解析手法の提案と理論解析等による磁場,運動状態の検証にやや時間を要した。また,回転運動を能動制御するタイプの装置も空芯コイル構造を新たに提案した製作過程の段階である。外的要因除去のための物品として除振台や電磁シールドシート等を購入済であるが,上記の2種類の磁気浮上装置はともにプロトタイプ製作中であり,今後の修善が必要であると考えられる。以上の理由により,次年度使用額として一部繰り越した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
磁気浮上装置に設置するセンサ購入費として使用する。また,周辺環境(制御回路素子,電磁シールドボックス等)整備費として使用する。これらの繰越購入を経て磁気浮上装置を完成させたのち,浮上磁石の非接触制御を確立させる。以降は当初予算を使用して研究開発を進めていく。
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