2015 Fiscal Year Research-status Report
高速分子線蒸着セルによる大面積有機デバイスの高速・低コスト作製への挑戦
Project/Area Number |
15K13954
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Research Institution | Nara Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
中村 雅一 奈良先端科学技術大学院大学, 物質創成科学研究科, 教授 (80332568)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松原 亮介 静岡大学, 工学部, 助教 (60611530)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 有機薄膜 / 真空蒸着法 / 高速分子線 / 有機トランジスタ / 有機太陽電池 / プロセスコスト削減 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、有機薄膜デバイスの作製における真空蒸着法のデメリットであるプロセス時間の長さや装置コストの高さを解消する手段として、代表者らが発案したホットキャピラリ出射口を持つ「高速分子線蒸着セル」の開発を進める。また、単に低真空下での高速デバイス作製を可能とするだけでなく、高速分子線による成長中の薄膜の加熱効果によって、基板加熱なしに膜の結晶性を高め電気特性を犠牲にせずに短時間で有機薄膜デバイスが得られることを実証する。 H27年度は、単一開口を有する研究用高速分子線セル、ならびに、それを様々な真空装置に取り付けられるようにした汎用性の高い高速分子線蒸着源コンポーネントの開発を行った。有機薄膜トランジスタ(OTFT)用活性層材料の定番であるペンタセンを用いて、キャピラリ寸法と加工法の最適化を行い、開口径0.25 mm、長さ3.0 mmのキャピラリを形成した無酸素銅製ルツボにおいて、特定のセル温度範囲において極めて放出角度分布が狭い高速分子線が形成されることを確認した。また、そのルツボを従来型蒸着源より高速に加熱でき、望ましいセル内温度分布が得られ、様々な装置や実験に汎用的に使える高速分子線蒸着源コンポーネントを設計・製作した。 さらに、高速分子線が形成される条件において、蒸着源-基板間距離を変えてペンタセン薄膜の成長速度を変化させ、OTFTにおける最重要物性値であるキャリア移動度を評価した。その結果、成長速度20 Angstrom/s以下では従来知られているとおり成長速度上昇とともにキャリア移動度が低下するが、20 Angstrom/sを超えると従来の常識とは異なり移動度が再び上昇する傾向が確認された。この効果によって、成長速度30 Angstrom/s以上の成長速度で従来条件である数Angstrom/s以下の速度で成長させた膜と同等のキャリア移動度が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
セルの各部パーツについての設計・試作・実験・解析サイクルに予想以上に時間を要しており、高速分子線セルの開発自体はやや遅れている。特に、実験を行うための真空装置を複数の研究テーマで共用していることによるマシンタイムの待ち時間や、特殊な加工を外注する際の納期が想定以上に長かったことが主たる要因である。前者については、他の研究テーマのために購入した大型汎用真空装置が混み合っていないため、一部の実験においてそれを利用することで実験ペースを上げる。後者については、複数の加工業者を利用する他、気体シミュレーションや熱流シミュレーションを活用してトライ&エラーを減らすことで加速する。一方、高速分子線セルを用いた高性能有機デバイス作製については、想定した以上に高速高密度な分子線による特性向上効果が見られたことから、当初計画以上の進行となっている。総合的には概ね順調と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
H28年度には、希薄流体シミュレーションも併用することで高速分子線セル構造の最適化をより進める他、高速分子線による成長中有機膜の加熱効果について、放射光を用いた結晶構造解析、デバイス特性の詳細な解析、熱流シミュレーションなどによってさらに詳しく機構や限界を調べてゆく。また、OTFTだけでなく、有機太陽電池など他の有機薄膜デバイスにおいても十分な性能を有するデバイスが高速作製できるかどうかを確かめる。 また、H29年度に向けて、幅広のフィルム状基板にロール・ツー・ロールで蒸着する装置において必要とされるインライン型の蒸着源を想定し、カーテン状の高速分子線を放出するマルチキャピラリーセルの開発にも着手する。
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Causes of Carryover |
当初計画では、高速分子線セルを改良しながら実験を行って実験データを蓄積し、希薄流体シミュレーション(ソフトウェア購入は予算の範囲を超えるため、シミュレーション作業を個別に外注する)の結果と比較して、その後のセル設計に活かすはずであった。ところが、セル製作のための特殊加工外注などに予想以上の時間を要したため、実験データの蓄積が十分ではなく、希薄流体シミュレーションの実施はH28年度にずれ込むこととなった。次年度に繰り越された額は、そのための費用である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
H27年度に第一段階としては完成した高速分子線セルを用いて基礎的な実験データを取得した後に、それを再現する希薄流体シミュレーションを行い、実験では得られない分子線の内部パラメータや分子ビームの形成に影響を与えるセル構造パラメータなどを抽出する。シミュレーションは、代表者が計画を立て、委託先企業の専門家と相談しながら計算の実行を依頼する。
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