2015 Fiscal Year Research-status Report
MEMS共振器構造を用いた非冷却高感度テラヘルツボロメータの開拓
Project/Area Number |
15K13966
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
平川 一彦 東京大学, 生産技術研究所, 教授 (10183097)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | テラヘルツ / MEMS / ボロメータ / 光検出 |
Outline of Annual Research Achievements |
基礎科学や安全・安心分野などへの応用が注目されているテラヘルツ電磁波技術では、電磁波の検出は、光伝導素子やボロメータにより行われてきた。これらの非同期検出においては、半導体や超伝導体の抵抗変化を信号として用いるため、室温で動作するような簡便な検出器は、ほとんど存在しない。しかし、テラヘルツ技術を基礎研究や社会の様々な場面で広く応用展開していくためには、極低温への冷却を必要としない高感度のテラヘルツ検出技術の開発は必要不可欠である。 本研究では、テラヘルツ入射光で誘起される発熱によるわずかな温度上昇を、MEMS両持ち梁構造の共振周波数のシフトとして高感度に読み取ることを原理とする高感度・非冷却のテラヘルツ検出用ボロメータの原理実証と試作を行うことを目的としている。特に本年度は、以下のような成果を挙げることができた。 1)AlGaAs/GaAsヘテロ構造を用いてMEMS両持ち梁構造を作製し、その圧電性を用いて梁の駆動と振幅検出を電気的に行うことができることを確認した。特に、振動読みだし電極にバッファートランジスタを接続することにより、浮遊容量の問題を解決し、数百倍大きな信号を得ることに成功した。現在、AlGaAs/GaAsヘテロ構造を用いてMEMSを作製していることの利点を活かして、MEMS両持ち梁と同じチップ上にバッファートランジスタを集積化する試みを始めている。 2)ボロメータの動作を模擬するために、MEMS両持ち梁の表面にNiCr薄膜ヒーターを堆積し、精密な熱の入力に対するMEMSボロメータの感度および雑音の評価を行った。その結果、最大の感度として3000 V/Wという冷却ボロメータに匹敵する高感度を達成することに成功した。この値は、駆動電圧や駆動周波数を調整して得られた最大値であるが、素子の最適化を行う前の値としては、非常に有望な値であると言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究を開始した当初は、圧電効果により発生するMEMS梁の振動信号が読みだし用ケーブルの容量によりシャントされ、出力電圧信号が極めて小さくなると言う問題があったが、振動読みだし電極にバッファートランジスタを接続することにより、浮遊容量の問題を解決し、バッファートランジスタがないときの信号レベルに比べて、数百倍大きな信号を得ることに成功した。この効果は非常に有効であり、冷却されたボロメータの感度に近い高感度を得ることができるようになった。この高感度性をさらに追求していく予定である。 一方、MEMS構造に関する基礎的な評価も行った。パルスレーザ励起・反射測定法により梁の共振周波数やQ値を求めることができること、さらにパルス励起直後の振動周波数の変化をモニターして、MEMS梁の熱的な時定数を求めることができることを確認したが、隣同士の梁の間の相互作用などにより、複雑な振る舞いをすることがあり、継続的に検討が必要である。さらに、高いQ値を目指して長い梁構造の作製にも取り組み、超臨界乾燥技術を用いて700ミクロンもの長さのMEMS両持ち梁を作製することに成功したが、パルスレーザを用いた測定では高いQ値を観測するには至らなかった。これについても継続的に検討する。 また、MEMSボロメータを用いて実際にテラヘルツ電磁波を検出する試みも行い、Siソリッドイマージョンレンズを用いて集光したところ、微弱な黒体輻射光源からの光を検出することができた。今後、さらに集光や光の有効利用ができる構造を検討する。
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Strategy for Future Research Activity |
H27年度に提案しているMEMS構造が高感度のボロメータとして動作することの初期的な評価ができたので、H28年度は素子構造の最適化を行う。特に梁の形状の最適化や、GaNAsなど歪み梁材料の導入により、特性が大きく改善することが期待されるので、その方向で研究を進める。 また、これまでは信号検出の方法として、MEMS梁の振動振幅を信号として読み出すslope検出という方法をとってきた。しかし、slope検出においては検出スピードが梁のQ値で制限されるため、高感度ではあるが動作速度が遅いという問題があることがわかった。一方、梁の共振周波数のシフトを直接検出するFM検出は、梁のQ値に依存しない高速な動作が期待される。今後は、FM検出の技術に習熟するとともに、どのような検出方法で何を評価指標とするのか(感度、動作速度など)を明らかにしつつ、構造の最適化、信号読み出し方法の最適化を図る。
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Causes of Carryover |
当初、高周波ロックイン増幅器を購入する予定であったが、同じ研究所の他研究室から借りることができたので、H27年度は購入をしなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
実験系の全体を見回して、優先度の高い測定器の購入に充てる予定である。
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Research Products
(5 results)