2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K13997
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
石田 寛 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (80293041)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岩見 健太郎 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (80514710)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 計測工学 / 感覚・知覚・感性 / ヒューマン・インターフェース |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、空気中に漂う希薄な匂いを吸着剤に捕集し、濃縮して使用者に提示する装置を開発する。人間の呼吸の周期に合わせて素早く匂いを濃縮し、提示することを目指す。本年度は、匂い濃縮を実現するためのフローシステムを作製した。吸着剤をチューブの中に納め、ポンプやバルブと接続する。匂いを濃縮する際にはポンプを稼動し、吸着剤を通して空気を吸引することにより、その中に含まれる匂い分子を吸着剤に捕集する。十分な量の匂い分子が捕集されたら、ヒータを加熱し、吸着剤に捕集した匂い分子を脱着する。その後、バルブを切り替え、吸着剤とポンプの接続を変え、吸着剤から脱着した匂い分子を空気流で押し出して使用者に提示する。 吸着剤に捕集した匂いを素早く脱着して提示するためには、吸着剤の量を少なくして熱容量を小さくし、ヒータで瞬時に加熱することが必要となる。初めに試作した装置では、ガス分析の際にガス吸着剤として広く使われているTenaxを1.5 g使用したところ、5 ppmのブタノールガスを15倍の濃度に濃縮することができたが、吸着剤の全体を加熱するのに5分程度を要した。そこで、三次元微細ナノ構造を持ち吸着能が高いシリカモノリスを吸着剤として用いたところ、1/100の量でも同等の濃縮率を達成できた。瞬時に加熱できる量の吸着剤でも、各種応用に向けて十分な濃縮率を実現可能であるとの見込みが得られた。 また、吸着剤を瞬時に加熱するためのヒータの設計を行った。当初製作した装置では、摂氏250度までヒータを加熱するのに約1分を要していた。一方、ガラス基板上に金の電極パターンをスパッタにより形成したデバイスを想定して伝熱シミュレーションを行った結果、厚さが1 mmで1.5 cm角の基板に1 mm幅の配線パターンを形成すると、0.1秒間に摂氏200度まで加熱することが可能であることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、空気中を漂う匂いを吸着剤に捕集し、人間の呼吸周期に合わせ、数秒間で素早く濃縮して使用者に提示することを目指す。当初作製した装置では、多量の吸着剤を用いていたため熱容量が大きく、吸着した匂い分子を脱着させるために十分な温度に加熱するまで数分を要していた。今年度は、本研究で提案する装置の実現可能性を示すため、(1)少量でも十分な濃縮率を実現可能な吸着剤の探索と(2)吸着剤を短時間に加熱可能なヒータの開発を目指した。その結果、シリカモノリスを吸着剤として使用することにより吸着剤の量を1/100に減らすことができ、必要な温度まで1秒以下の時間で加熱できるヒータを設計することができた。このように、装置開発のキーとなる二つの課題において、研究計画時に目標とした数値を達成できる見通しが得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、マルチフィジックスシミュレータを用いてMEMSヒータの設計を行ったが、設計したヒータを実際に製作するところまでは至らなかった。しかし、当初の予想に反し、極限まで熱容量を小さくした薄膜ヒータを作らなくても、十分に素早い加熱が可能であることが分かった。低コストで短期間に製作可能なプロセスでMEMSヒータを実現できることが分かったので、ヒータの製作を早急に進め、シリカモノリス吸着剤を付加したデバイスを開発する。試作した装置を用いて実際に様々な匂いの濃縮を試み、嗅覚の衰えを補う「補嗅器」として使用できることを確かめる。また、開発した装置を用いれば、人間も災害救助犬のように匂いを嗅いで行方不明者を探索することができる可能性がある。人間が災害救助犬にどこまで迫れるか、血液などの匂いを嗅ぎ当てる実験を行って確認する。
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Causes of Carryover |
捕集した匂い分子を素早く加熱脱着するヒータの設計を初年度に行った結果、当初の予想より大きなサイズのヒータでも十分な加熱特性を得られることが分かった。そのため、ヒータの作製にコストの高い極微細加工プロセスを使う必要はなくなったが、マンパワーの不足から、実際にヒータを作製するまでには至らなかった。そこで、研究を強力に推進するため、平成28年3月1日より博士研究員を雇用した。MEMSヒータの完成まで継続して博士研究員を雇用するため、平成27年度に使用予定であった金額の一部を平成28年度における人件費に充当する。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額は、博士研究員を平成28年5月末日まで継続して雇用するための人件費として用いる。
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Research Products
(4 results)