2015 Fiscal Year Research-status Report
マルチスケール相互作用に着目したパイピングを伴う堤防の進行性破壊メカニズムの解明
Project/Area Number |
15K14029
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Research Institution | Nagoya Institute of Technology |
Principal Investigator |
前田 健一 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50271648)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | パイピング / 浸透破壊 / 河川堤防 / 粒状体 / 応力鎖 / 個別要素法 / ゆるみ / 進行性破壊 |
Outline of Annual Research Achievements |
応力鎖の発生・消滅のダイナミクスという視点から,噴砂,ゆるみ,空洞化,流動化,閉塞を伴うパイピングによる進行性破壊の統一的メカニズム解明を検討した. 【パイピングの進行性に及ぼす基礎地盤特性の影響】 基盤漏水に伴うパイピングに関して,従来は見逃していた互層基盤の層構造・層厚比に着目してパイピングによる決壊度の整理をした.堤防の変状モードが土層パターンと外力によって異なることを示した.特に,動水勾配0.2以下とすることの重要性やパイピングの変状の進行度と水位,基盤土層の互層構造と堤外側の構造との重要な関係を明らかにした.直ぐに対策が必要(互層基盤で砂礫層が河床に露出有り),パイピングで決壊に至り難くいがすべりに注意が必要(単一層基盤),その中間の水防活動で対応可能・破壊抑制が可能(互層基盤)といった土層区分を提案した. 【ゆるみの可視化】 従来は不飽和地盤の水分量変化の測定に用いられる電気抵抗測定を用いて,飽和地盤中のゆるみ・流動測定を試みた.浸食箇所での流動層の存在,ゆるみ現象を電気抵抗値の変化で捉えられることがわかった.このゆるみでは,単なる間隙比の変化だけでなく,応力鎖の発達・消滅に関係するミクロスケールでの拘束状態の変化を捉えることが分かった.他の原理による計測との組み合わせで内部構造の可視化が進むと考えられる. 【複合的変状の進行を考慮した数値解析法の開発】 透水層内の速い流れによる変状,堤体の変形,空洞周辺の不安定性を再現可能な数値解析手法や,浸透による細粒分移動による内部侵食による堤体の変状を表現可能な数値解析法について検討した.亀裂,大変形が再現可能な粒子法の計算結果から,単に破壊パターンの分類をするのではなく,透水性基盤~堤体~外力を一体で整理し,破壊モードが連続的に変化し,どのような条件でどのような破壊形態を示しやすいのかを示すことが可能になってきた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
以下のように研究計画通りに進め,得られた知見が多かったことから,予定したよりも進んでいると判断した. ①応力鎖可視化実験装置の開発,超小型微流速計や超小型熱式流速計の試作: 提案通り,多様な計測原理による多角的計測を行うことができた.まず,非破壊試験・音響トモグラフィの技術については装置のさらなる小型が課題であることがわかった.粒状体の密度については,飽和状態では電気抵抗が感度良くゆるみを捉えることが分かった.想像よりも微小な力学的な応力鎖との関連が大きく,今後積極的に利用し,改良する波動トモグラフィと重ねて使うことで,研究が進むと考えられる.さらに,原位置で使われる水車式微流速計や流体中の熱移動特性に基づく熱式流量計の超小型機の試作も実施した.電磁波レーダについては,当目的への適用は,感度の低さから難しいと考えている. ②粒子-流体相互作用を考慮した数値解析コードの開発: 予定通り,開発済みの3次元DEMに流体との連成についてSMACとVOFを用いたCFDと粒子法であるSPH法によるCFDの両方の開発を試みた.また,GPGPUを用い計算の効率化も図った.流れの局所化や透水係数が異なる場での流れの局所化と粒子の移動を観察できた. ③パイピング発生条件と湧出が局所化される条件の解明: 当初の計画通り,比抵抗を用いたゆるみ可視化実験,数値解析を用いて,パイピング発生条件としての漏水湧出量が砂粒子を動かす速度閾値,透水層の間隙水圧伝播特性と間隙水の湧出が局所化される条件を検討し図表および簡易な条件を示すことができた.間隙流速測定については今後,さらなる検討が必要であった.電磁波レーダではこれらの現象をとらえるのは難しい.
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Strategy for Future Research Activity |
現在までの研究成果を基に以下のように進める. ①パイピングの発達(進行)条件の解明とモデル化: パイピング孔の発達は下流側の堤内から上流の堤外に徐々に進行するというのが定説であるが,これとは異なることが明らかになった.噴砂発生後,上流側の土が流動化し土砂流のように移動,噴砂孔付近が閉塞され,この時に上流側の部分に空洞が発生する.この過程が繰り返され,上流側で侵食・空洞化が起き,最終的に孔が貫通し,破壊に至る.このように,固体としての土が流動化し土砂流として移動し充填することで,空洞や閉塞が発生する可能性がある.この相変化を伴うプロセス全体を,応力鎖の発生・消滅,密度変化などを可視するという新たな着想と試みで,統一的に説明しモデル化する.新たなパイピングの発生・発達条件の解明に挑戦する. ②漏水・パイピングの事例収集と分析: 実堤防の事例を収集する.漏水の濁りの有無,湧出間隔や堤体からの距離,堤体・基盤の土質や土層構成,地形,水位波形などの情報から,先に求めた漏水湧出が土粒子を動かす速度閾値やパイピングの発生・発達条件を検証し,改善する.また,上記までの成果から情報を活かすための漏水点検のポイントの新たな提案が可能と期待される. ③パイピングとすべりの複合破壊のメカニズム解明: 浸透によるパイピングの発達と堤体のすべりが複合して進行する破壊のメカニズムをマルチスケールの観点から考察する.二次元,三次元で複合的な破壊の条件について明らかにする.従来は,パイピングとすべり破壊に関する設計基準は別々に設けられており,二つの破壊モードを連動させて検討することは新たな着想である.また,気候変動に伴い高い河川水位の継続時間が長くなっている状況を考えると,本成果は,ねばり強い堤防にするための強化方法や効率的な維持管理方法の提案に役立てることが期待され,今後,発展性の高い取り組みといえる.
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