2015 Fiscal Year Research-status Report
カビ臭産出関連遺伝子の分析を用いた次世代型貯水池カビ臭対策技術の開発
Project/Area Number |
15K14038
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
浅枝 隆 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (40134332)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山口 雅利 埼玉大学, 理工学研究科, 准教授 (20373376)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 貯水池異臭味障害 / 2MIB / シアノバクテリア / カビ臭 / 貯水池水質管理 / 干し上げ対策 / 曝気循環 / 渡瀬貯水池 |
Outline of Annual Research Achievements |
いくつかのストレスに対するシアノバクテリアのカビ臭物質であるジメチルイソボルネオール(2MIB)の発生特性を調べた。 まず、渡良瀬貯水池等で行われ、効果を発揮しているとみられる乾燥に対する影響を調べた。細粒ガラスビーズを詰めたビーカー中に、予め十分な濃度のシアノバクテリアPseudoanabaena galeataを、一定の乾燥度が得られる培養液量で多数作成、一定期間培養が経過するごとに、溶液を採取、GC-MASにより2MIB濃度を測定、さらに、計測十分な濃度にまで再度増殖させ、RNAを抽出、cDNAに転写後、RT-PCR分析により、DNAを定量、2MIBを合成する際に必要なGPPMT、MIBSの遺伝子の発現頻度を求めた。その結果、GPPMTとMIBSは同一オペロン内に存在することから、極めて高い相関が得られ、以後は、MIBSのみの測定で十分なことが得られた。次に、2MIBの合成に関連する遺伝子の発現頻度は、乾燥状態の継続時間の増加とともに減少、2週間程度で最低値となり、その後はその値が保たれることがわかった。これより、現在渡良瀬貯水池で行われている一か月程度の期間干し上げを2週間程度にまで短縮できることがわかった。 次に、曝気循環装置を用いた場合の影響を調べるために、水圧ストレスに対する2MIB生成特性を調べた。実験では、水深20m-60mを想定した高圧を負荷する必要があることから、内径1㎜の筒を用いることで高圧負荷を可能にし、P.galeataを培養、圧力負荷の有無による2MIB生成量およびMIBS遺伝子の発現頻度を測定した。その結果、圧力がかかると、2MIBの生成量は減少するものの、細胞外に漏出することから臭気は増加することが明らかになった。これは、曝気循環の運転に対し改良が必要であることを示す結果である。 以上、遺伝子分析を利用により、効果的な実験が可能になった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
貯水池のアオコ対策において、最も頻繁に行われている方式は、曝気循環によって表層の水を下層に移動させ、同時にシアノバクテリアも下層に移動させることによって増殖を抑制しようというものである。これまで、この方式による増殖抑制効果の仕組みは、シアノバクテリアを深部に移動させることによって光合成に必要な日射を制御するためと考えられてきている。ところが、他方、シアノバクテリアが深部に移動すると、同時に、極めて高い水圧を受けることになる。この効果については、考えられてこなかった。また、深部に移動、水圧が増すことでの、2MIB産出能についても全く不明であった。元々、こうした実験は、実験規模が巨大になるため、想定すらされなかったものである。今回、直径1mmの管を用いて実験を行うことで、実験室内で容易に現地の水深レベルの圧力負荷が可能になった。このアイデアは本研究のオリジナリティを向上させることに大きく寄与した。これらの実験によって得られる結果は、単に、2MIB産出能に関する結果だけでなく、様々なものにおいて、極めて新しいものである。計画以上の高い成果が得られたと考えられる。 実験では2MIBを産出する種としてPseudoanabaena galeata を用いているが、増殖速度が遅く、遺伝子解析に必要な十分なRNAを取り出すまでに増殖させるには長い時間を必要とする。そのため、本来、数度の繰り返し実験を行って信頼できる結果を得ることが重要であるが、今回は、期間内に1度(3ケース)の繰り返し実験を行うのが精一杯であった。次年度には、今年度行えなかった十分な繰り返しを行うことで、より信頼性の高いものにしていく必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
技術的なこととして、これまでPseudoanabaena galeataを用いて実験を行っているが、増殖速度が遅く十分な再現実験の回数が得られていない。次年度には、まず、これまで行えなかった十分な回数の繰り返しを行って、再現性を高める必要がある。 二次代謝物としての2MIB産出の理由は明確でない。その意味では、今後の研究を進める上では、ストレスがかかるほど2MIBが産出されるのか、ストレスが少ない程産出されるのかという点について明確にしておく必要がある。現在までの結果では、乾燥、水圧ストレスに対しては2MIB産出能は低下する傾向にはありそうではあるが、結論を得る段階にはない。 植物プランクトンに対するストレス因子は、光の他に栄養塩である。そのため、栄養塩濃度自体及び生長を律速する栄養塩が異なることに対する2MIBの産出能に対する影響把握を行う。 窒素およびリン濃度をリン制限になる30:1および窒素制限になる3:1のモル比に設定、濃度を変えることで、増殖に対するストレス度、律速栄養塩を変えた実験を行う。本年度と同様、2MIBを産出するシアノバクテリアであるPseudoanabaena galeataを培養、OD730による細胞濃度、2MIB産出遺伝子の発現頻度及び産出され蓄積されている2MIBを細胞内および細胞外に分けて測定、さらに、増殖量を規定する、クロロフィル、カロテノイド、フィコビリソーム等の光合成色素を測定する。これらの関係から、栄養塩濃度と増殖率との関係を把握することでストレスレベルを評価、さらに、それに伴う2MIB産出能の変化との関係を把握する。 以上の結果から、ストレスと2MIB産出能との関係を明らかにし、具体的な対策に繋がる手掛かりを得る。
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