2015 Fiscal Year Research-status Report
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15K14103
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
毛利 哲夫 東北大学, 金属材料研究所, 教授 (20182157)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 可視化 / 粗視化 / マルチスケール計算 / クラスター変分法 |
Outline of Annual Research Achievements |
一般に可視化とは、実験で観察することが困難なミクロスケールの構造を、電子論等に基づいて直接計算し、視覚に訴えるかたちで提示することであるが、本研究では、メソスケールの情報からミクロスケールの構造を類推することと定義する。一方、粗視化とはミクロ過程の平均化による有意な情報の抽出と、この情報のメソ・マクロスケールへの伝達である。マルチスケール計算の多くは、ミクロ メソ マクロの単一方向の計算であるが、本研究ではミクロ(電子挙動・原子配列)とメソ(内部組織)を対象に、粗視化と可視化の対称操作に必要な数理的要件を明らかにし、ミクロ メソの双方向のマルチスケール計算を実行する。 当該年度においては、クラスター変分法とフェーズフィールド法を介して、原子レベルの情報をメソスケールに粗視化する手法について検討を加えた。組織レベルの大きな座標系と原子レベルの小さな座標系を導入し、小さな座標系の情報を有意なものとして大きな座標系に伝達するというものである。このために、Kikuchi-Cahnの手法に再検討を加えた。そして、新たに導入した考え方は、熱力学示強変数がスケール変換によっても不変に保たれるというものである。 クラスター変分法とTimeDependent Ginzburg Landau方程式の組み合わせで、規則相のドメインの時間発展過程を取り扱ったが、この場合の示強変数として適切な変数に関してはいくつかの試みを行ったものの、未だ結論は出ていない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
クラスター変分法(Cluster Variation Method; 以下CVMと略す)は離散格子で定義されるため、電子状態の計算(多くの場合Density Functional Theoryに基づくため、以下DFTと略す)とよく整合する。DFT+CVMで記述される第一原理自由エネルギーに、一般化されたKikuchi-Cahnの手法を用いることで、粗視化されたGinzburg-Landau型の全自由エネルギーを求めることができる。具体的には、結晶格子に二つの異なる座標系を導入する。一つは原子レベルの座標系(atomic scaleの座標系でありa-系と呼ぶことにする)であり、もう一つはもっと大きな(これが粗視化のサイズを決定する)座標系(global な座標系でありg-系と呼ぶことにする)である。a-系でDFT+CVMの計算を行い、ここからクラスター濃度と自由エネルギーの平衡値を算出し、次に、a-系の各原子面でクラスター濃度の展開を行い、二次の項までを陽に取り扱う。このとき、a-系の自由エネルギーもクラスター濃度の一次勾配や二次勾配を含む関数として各原子面で定義される。この自由エネルギーを、クラスター濃度の空間勾配の消滅する状態、即ち、一様状態の周囲で展開を施す。そして、クラスター濃度の空間勾配の2乗項までを求めると、粗視化されたGinzburg-Landau型の全自由エネルギーの一般形が求められる。 これが本研究の理論概要であり、このような考え方に基づいて、規則相の形成に伴う規則ドメインの時間発展過程についての計算を行うことができた。さらに、実用的な粗視化の指針として、示強変数の不変性を用いるとの着想を得ることができたが、上述の規則ドメインの形成過程の中で、何を示強変数として採用するかについては完全な結論を得ることができないでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
適切な示強変数の同定が重要課題であり、この問題を早急に解決すべきであるが、これに加えて、粗視化された内部組織から逆にミクロな構造を求める為に、Bayesian 統計の基礎に戻った議論を行う。 Tanaka-Moritaによって提唱されたBayesian 統計とCVMの対近似を組み合わせた変分原理に基づき、自由エネルギー関数を極小化することで最も確からしい画像を類推する問題を、フェーズフィールドイメージに対して試みた経験があるが、次年度においてはかかる計算をさらに大規模化して、逆位相界面における原子配列を類推できるような手法の開発に取り組む。
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Causes of Carryover |
平成27年度は、粗視化において不変に保たれるべき変数の同定に重点を置いてため、理論研究が主となり、又、補助的に用いた計算機もこれまでの既存の計算設備で間に合わせることができた。人件費においても、当初、長期休暇期間中に雇用予定であった院生が本学を離れたために人件費の余剰が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
人件費の使用については、ポスドク・クラスの雇用は難しく、院生の長期休暇期間中の雇用を計画しているが、必ずしも確実なメドがついているわけではない。従って、計算プログラムコードを開発した後は、計算サービスを行っているセンターへ業務委託を行うことも計画している。
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