2015 Fiscal Year Research-status Report
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15K14120
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
谷口 博基 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (80422525)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 誘電体物性 / 光誘起効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度はペロブスカイト型化合物に着目し、①5.4eVと広いエネルギーギャップを有する酸化物誘電体LaAlO3、およびε~10,000にも及ぶ巨大な誘電率を有するリラクサー強誘電体Pb(Mg1/3Nb2/3)O3[PMN]における物質合成と、光照射下における誘電測定を実施した。ここで、光照射下における誘電率計測においては一般的に光照射による試料の昇温の影響等によって光照射に直接的に起因しない外因性の誘電率変化が重畳する。それに対して本研究では、本質的な光誘電効果の抽出を可能にするために、赤外放射温度計による光照射領域の非接触温度計測等を組み合わせた独自の光誘電測定システムを本研究助成金の支援の下で構築した。この光誘電計測システムによって、Alを部分的にZnで置換したLaAlO3、及びPMNにおいて、それぞれ異なるタイプの光誘電率効果を室温領域で見出すに至った。 Zn置換LaAlO3では、高周波数領域において光照射による約7%の誘電率の上昇を見出した。現在までに、光照射による誘電損失の顕著な増加を伴った低周波数領域の誘電率の上昇は、SrTiO3や硫化物蓄光体等において報告されているが、これらは全て光伝導現象による見かけ上の光誘電効果と考えられている。それに対して本研究で見出された効果は誘電損失の増加を伴わない。この結果は、本研究において本質的な光誘電効果が新たに発見されたことを強く示唆するものである。 一方、PMNでは光照射によって約10%の誘電率の減少を見出した。PMNでの光誘電率効果に関しても誘電損失の変化は見られなかった。本結果はZn置換LaAlO3での結果を全く逆の効果である。従って、Zn置換LaAlO3とPMNにおける光誘電効果のそれぞれが、互いに異なる機構でメカニズムで発現していると考えられる
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初は、実験的手法による物質探索として①充填トリジマイト型構造を有する酸化物物質系における系統的物質合成、また②光照射下誘電率計測システムの構築、さらに計算科学的手法による物質探索として③第一原理計算による予備的なバンド構造計算を、研究初年度に計画していた。本年度、②に関しては予定通り実施し、独自の光誘電測定システムの構築を完了した。①に関しては、充填トリジマイト型構造を有する酸化物物質系においては、いまだに有意な光誘電効果の観測するに至っていないが、平行して進めていたペロブスカイト型酸化物Zn置換LaAlO3及びPMNにおいて、本質的光誘電効果と考えられる現象を新たに発見するに至った。これは当初の予想と計画を大いに上回る成果である。この②での成果を受けて、③に関しては主にペロブスカイト型酸化物における光誘電効果のメカニズムを解明に向けた計算実験に研究計画をシフトして進めている。以上が、初年度の成果として当初の計画以上に進展しているとする根拠である。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の進捗状況を鑑みて、今後はLaAlO3系及びPMN系酸化物を主な研究の柱とし、①系統的な物質設計・合成による光誘電効果の物性最適化、②実験的手法、および③計算科学的手法による光誘電効果のメカニズム解明に取り組む。またそれと平行して、④充填トリジマイト型酸化物を中心とした他の物質系における光誘電効果の探索を継続して実施する。 ①に関しては、LaAlO3のAlサイトに置換する異価数元素の種類や濃度を系統的に変化させた試料を合成し、光誘電効果の計測を行う。それによって、光誘電効果に関する最適組成を探索する。また、Laサイトの異価数元素置換効果についても合わせて検討する。一方PMNにおいては、BサイトとしてMgとNb以外の組み合わせを有するリラクサー強誘電体を種々合成して、光誘電効果の違いを調べることで、大きな光誘電効果を示す物質系を探索する。②に関しては、ネットワークアナライザや分光エリプソメトリーを用いて、より高周波数領域における光誘電効果を計測する。それによって光誘電効果を生じる分極の起源に関する知見を得る。③に関しては、特にLaAlO3系においてはZn置換によって導入されるギャップ内準位が光誘電効果において重要な役割を果たしていると予測されるため、Zn置換によって導入されるギャップ内準位を調べると共に、種々の異価数元素置換によって導入される準位に関しても合わせて調査する。
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Causes of Carryover |
光誘電効果がZn置換LaAlO3及びPMNにおいて比較的早い段階で発見に至ったため、当初予定していた物質探索にかかる費用が減額になったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
Zn置換LaAlO3及びPMNにおける光誘電効果に対する物性最適化に必要となる消耗品等、及びメカニズム解明に向けた出張実験や外部研究者との議論等に必要となる費用に対して主に支出する予定である。
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Research Products
(4 results)