2015 Fiscal Year Research-status Report
ベンチレータ型絞りによる逆空間選択的位相干渉スピンナノスコピーの試み
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15K14121
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
武藤 俊介 名古屋大学, 未来材料・システム研究所, 教授 (20209985)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 電子顕微鏡 / 電子エネルギー損失分光 / ナノ磁性 / 磁気カイラル二色性 / 磁性材料 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度には以下の二つの試みを行った. (1)検出器側ベンチレータ型入射絞りの回転機構の作製 逆空間(電子回折面)で±のカイラル信号の一方を選択的に取得する方法として,①対物絞りにベンチレーター型パターン絞りを挿入,②検出器の入射絞りにパターン絞りを挿入の二つが考えられる.磁気信号を得るためには±の信号を別々に取得するために,回折図形の対称性に合わせて絞りのパターンを回転して二回の測定を行う必要がある.まずここでは装置改造・作製の容易な②を選択し,絞りの回転機構を組み込んだ.この場合,分光器(検出器)に対して正しい方位で逆空間の適切な領域を選択することが技術的な障壁となることが分かった.そこで現在①の可能性を模索している. (2)ナノメートル分解能での磁気モーメント定量マッピングの試み 通常のEMCD測定をナノプローブ走査によって実施し,磁性体と酸化物のヘテロ界面付近の磁気モーメントの空間変化をマッピングする子試みを行った.試料にはBCC鉄/MgOエピタキシャル膜の断面TEM試料を磁気トンネル接合モデル界面として用いた.ノイズが多く含まれるデータに統計処理を施し,そこに内在するスペクトル成分を抽出して軌道角運動量/スピン角運動量比を界面付近を含む領域で可視化した.これによって,磁気書く運動量比の値が界面付近で有意に上昇していることが認められた.このことは第一原理電子論計算によって,金属-酸化物間で拡散元素混合の無いシャープな界面のみで再現されることが分かり,このような測定でヘテロ界面のキャラクタリゼーションが可能なことが氏絵された.さらにS/N比を上げるために収束電子を三波対称励起条件でスペクトル取得する新たな測定条件を見いだした.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画のベンチレータ型絞りを装着できる検出器絞りホルダーを作製したが,絞りの回転機構がうまく働かなかったこと,及び分光器上で電子回折図形の方位を決定することが実際には困難であったことなどから,当初想定していた絞り挿入機構の見直しを行わざるを得なかった.したがってこの絞りホルダー開発費計上分を繰り越さざるを得なかった.特殊パターン絞りを使う手法について問題点が明らかになったが,年度末に絞りの回転を行うこと無く,二つのパターンを鏡映対称に配した絞りを使い,二次元検出器の特性を生かした新たな測定法の可能性を見いだした.この測定には,スペクトルデータの自動保存機能を加えるための制御プログラムを組み込む必要がある.現在その原型プログラムが完成してテストを待っている. 更に実績概要欄で記述したナノメートル分解能磁気モーメントマッピング及び原子面分解能EMCD測定の二つの新しい測定法の開発に成功し,現在トップジャーナルに投稿するべく論文を準備中である.
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Strategy for Future Research Activity |
本年度はいよいよナノメートル分解能によるEMCD測定を応用した実材料測定へと進む予定である: (1)鉄の結晶粒界付近の磁気角運動量測定:これまで鉄のL_2,3ホワイトラインの強度比を利用した測定によって結晶粒内部と粒界付近での磁気角運動量の違いが報告されているが,測定法の問題から現時点で未だその結果に世界のコンセンサスを得られていない.現在開発中の技術をこの問題に適用して,この問題に決着をつけたい. (2)酸化物強磁性体(フェライト)材料での原子サイト選択的EMCD測定:フェライト材料では一般的にフェリ磁性といって同じ元素であっても原子サイトによって異なる磁気モーメントを持つ場合がある.原子面分解能EMCD測定法を適用し,曖昧さ無く原子サイト選択的なEMCD信号取得及び磁気モーメント定量測定を世界に先駆けて実施する予定である.
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Causes of Carryover |
ベンチレータ型絞りを装着できる検出器絞りホルダーを作製したが,絞りの回転機構がうまく働かなかったこと,及び分光器上で電子回折図形の方位を決定することが実際には困難であったことなどから,当初想定していた絞り挿入機構の見直しを行わざるを得なかった.したがってこの絞りホルダー開発費計上分を繰り越さざるを得なかった.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記の再検討の結果,ベンチレータ絞りの形状を見直し,鏡映対称絞りと二次元検出器を併用することで,更に有効なEMCD測定が可能であることが明らかになった.このためにはエネルギーフィルターの補助スロットに位置敏感測定用の絞りを挿入する.そこでこの新しいアイデアに基づく装置改造・調整に必要な経費に繰り越し分を使用する予定である.
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