2015 Fiscal Year Research-status Report
固体酸化物中における高速水酸化物イオン伝導機構の解明
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15K14123
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
豊浦 和明 名古屋大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (60590172)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 水酸化物イオン伝導 / ピロリン酸塩 / 第一原理分子動力学法 / nudged elastic band法 / kinetic Monte Carlo法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,第一原理計算に基づくイオン伝導挙動解析よりピロリン酸塩中における水酸化物イオン(OH-イオン)伝導の微視的描像を明らかにし,従来系で支配的とされるGrotthuss機構やVehicle機構とは異なる新たな伝導メカニズムの解明を目的としている.具体的には,結晶中におけるOH-イオンの安定構造の同定および伝導経路探索という2項目について調査を実施した. まず,OH-イオンの安定構造について,OH-イオンは単に格子間にOHユニットとして存在するのではなく,結晶内に存在するP2O7ユニットが2つのPO4ユニットに解離し,その間にHが配置する“PO4HPO4構造”をとることが明らかとなった.また,準安定構造として,OH-がP2O7ユニットから独立して存在する“格子間OH構造”やP2O7ユニットに取り込まれた“HP2O8構造”が存在することがわかった.これら準安定構造のエネルギーは,それぞれ0.66 eVおよび0.78 eV (vs. 最安定構造) であった. さらに,同定された安定構造を始状態として第一原理分子動力学法に基づく拡散シミュレーションを行ったところ,上述の安定・準安定構造を経由する長距離伝導経路が確認された.ただ,2000 Kという高温にもかかわらず,その頻度は100 psの間にわずか2回であった.さらにその移動経路に対するポテンシャル障壁をnudged elastic band法より評価したところ1.92 eVと非常に高く,過去に報告されている高いOH-伝導性 (活性化エネルギー:0.15 eV) と矛盾する結果となった.これは,本研究で想定しているバルク伝導以外の高速伝導機構(e.g., 粒界・表面伝導) が存在することを示唆するものである.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初計画では,平成27年度に水酸化物イオンの存在状態とその熱力学的安定性についての研究に留める予定であったが,すでに,平成28年度に予定していた第一原理分子動力学法に基づく拡散シミュレーションおよびnudged elastic band法に基づく移動エネルギー評価まで終了している.また,これらの結果をまとめた論文をJournal of Materials Chemistry A誌に投稿し,すでに掲載されている.したがって,現時点において最終目標をほぼ達成している状況にあるといえる.
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度までに,SnP2O7中の水酸化物イオン伝導機構について,「安定・準安定構造の同定」,「伝導経路探索およびそのポテンシャル障壁の評価」について研究を行った.そして,「水酸化物イオンは単に格子間に取り込まれるのではなく,結晶内に存在するP2O7ユニットが2つのPO4ユニットに解離し,その間にHが配置する“PO4HPO4構造”をとること」,「バルク領域における水酸化物イオン伝導性は過去に実験的に報告されているほど高速でないこと」が明らかとなり,当初計画の内容をほぼ達成した状況にある. そこで,平成28年度は,SnP2O7中で同じく高速伝導が報告されているプロトンについて,同様の検討を行うことを予定している.具体的には,プロトンの安定・準安定サイトの同定,プロトンサイト間を繋ぐ伝導経路探索とポテンシャル障壁評価,kinetic Monte Carlo法に基づく拡散シミュレーションを行う.さらに,プロトン伝導に与えるドーパントの効果も考慮するため.ドーパントとプロトンの会合エネルギー評価も行う予定である. そして2年間で得られた結果を基に,過去に報告されている水酸化物イオンおよびプロトンの高速伝導の起源を明らかにすることを最終目標とする.
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Causes of Carryover |
平成27年度は次年度への繰越し514,726円が生じているが,これは当初購入を計画していた第一原理計算ソフトウェア(VASP code)のライセンス料(4,000ユーロ)の支払いが次年度にずれ込んだことによるものである.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
まず,平成27年度からの繰り越し分について,これは主に第一原理計算ソフトウェアの支払いに充てることを予定している.また,平成28年度研究費の使途について,まず,研究のスピードアップを目的にデータ処理用計算機の購入を予定している.その他,計算機周辺機器やネットワーク関連部品の購入,加えて,成果発表・情報収集に関わる旅費などにも研究費を使用する計画である.
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Research Products
(2 results)