2015 Fiscal Year Research-status Report
遷移金属元素の個性の化学的直観と計算化学の融合~金属窒化物を舞台として
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15K14128
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
犬丸 啓 広島大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (80270891)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 窒化物 / 第一原理計算 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、遷移金属窒化物の物性を第一原理計算および実験により調べ、遷移金属元素の個性がどのように現れるかを議論する。最終的には、化学者が持っている元素の個性に関する化学的直観を用いて、化合物の電子状態を実験化学者が理解するためのより直観的かつ本質を捉えた方法論へ展開することが大目標である。初年度であるH27年度は、3d遷移金属(Sc~Cu)のモノナイトライドの安定性(凝集エネルギー、生成エネルギー)の計算結果を行い、元素の違いによるその特徴的な振舞の根源を理解することを目的とした。Sc~Coまではモノオキサイドとモノナイトライド双方の存在が知られているのに対し、後周期のNi, Cuではモノオキサイドは知られているがモノナイトライドは明確な結晶相としての報告がなく合成困難である(実際、我々の過去の薄膜実験でもNiNの薄膜合成の試みは成功していない)。このことには、元素の個性に基づく深い理由があるはずである。第一原理計算を元素に関する化学的知識をもとに解釈することにより、その理由を明らかにすることを一つの目標とした。凝集エネルギーを計算したところ、Sc~Cuのすべての元素において、モノナイトライドとモノオキサイドともに凝集エネルギーが十分負の値であり、NiN, CuNに特段の特徴は見られない。一方、生成エネルギーは、CoとNiの間で、モノナイトライドでは符号が反転しNiN, CuNでは正となった。モノオキサイドはNiO, CuOを含めて生成エネルギーが負である。この計算結果は、3d遷移金属のモノナイトライド、モノオキサイドのうち、NiN, CuNだけが合成できていないことによく対応している。すなわち、NiN, CuNは窒素分子を放出して金属に分解する反応に対して安定でない可能性が示唆されている。MBE装置を用いた実験でもこれに矛盾しない結果が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
遷移金属窒化物の安定性について、第一原理計算と実験の対応を付けることができた。さらに、研究実績の概要では述べられなかったが、その結果を化学的直観をもとに解釈する目途も立っている。従って、当初の計画以上に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
計算結果を化学的直観をもちいて単純化して理解する妥当性についてさらに検討するとともに、第一原理計算の解釈法としてより一般化した方法論に展開できないか、さらに研究を進める。
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Causes of Carryover |
本研究は、計算と実験の両方を実施するものであるが、本年度の研究内容として予定より計算を優先して実施したため、全般に実験に対する支出が抑えられる(先送りされる)結果となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度以降、実験も含めてさらに研究を推進するため、適切に執行する計画である。
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