2016 Fiscal Year Research-status Report
水素による純チタン焼結材の高延性機構解明とハイブリッド集合組織形成による高強度化
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15K14182
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
近藤 勝義 大阪大学, 接合科学研究所, 教授 (50345138)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 粉末冶金 / 純チタン / 水素 / 集合組織 / 相変態 / 塑性加工 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,粉末冶金法により作製した微量水素を含む純チタン焼結材において,高強度化に加えて高延性化に資する水素原子の影響を解明すると共に,β→α相変態時に熱間塑性加工による歪み場を付与し,<0001>αと<10-10>αが層状に配列するハイブリッド集合組織をインプロセスで形成することでチタン材の高強度化を検証し,かつ強度異方性の解消に資するプロセス設計を構築する.先ず,出発原料として水素化チタン粉末(TiH2粉末)を準備し,これを用いて作製した圧粉成形体を異なる温度域(固相状態)で加熱・焼結することで残留水素量を調整した純Ti焼結体を試作した.各チタン焼結体をβ変態温度域(890℃以上)まで加熱・保持し,熱間押出加工を施すことで局所的にヘテロな集合組織を形成した後,常温にて引張試験による力学特性評価を実施した.またα相(hcp-Ti)内に析出するTiH2化合物が引張応力下で発生する変形双晶に対する振舞いを解明すべく,局所変形から一様変形に移行する挙動を上記の引張試験を走査型電子顕微鏡(SEM)内で実施すると同時に,EBSD解析による集合組織変化に関するその場観察を行い,純Ti材の高延性化機構を明らかにした.集合組織に関しては,一般に引張応力下においてα相からなる純Ti材が変形する際には多数の変形双晶が局所的に集中して発生し,それらがTi結晶粒界を横断・進展することで局所変形による破断現象に至る.しかしながら,本研究で作製した水素を0.33wt%含む純チタン焼結材を1000℃以上の高温域に加熱すると,水素は一旦,β相内に固溶するが,冷却過程でのβ→α相変態の進行に伴ってα相の結晶粒界および粒内において脆性かつ硬質なTiH2針状化合物相として均一に析出した.この状態でSEM内引張試験を行なったところ,変形双晶の結晶粒内進展を抑制し,試料全体に分散させることで延性向上を実証した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
水素化チタン粉末を直接原料とした純チタン材創製の可能性を検証するとともに,高濃度の水素を含んだTi-H押出加工材に対する組織構造解析および力学特性調査を通じて,チタンの高強靭化に寄与する水素の元素機能を明らかにした.微量水素を含むチタン焼結材に対して熱間塑性加工(押出加工)を施し,その冷却時の相変態過程において,六方晶格子(hcp)のc軸が押出方向と平行に配列した〈0001〉集合組織を形成した結果,ヤング率の向上とそれに起因する耐力の増加を実証した.本課題は平成29年度に実施予定の内容であると同時に,上述した成果に関しては,既往研究では一切報告が無い内容であると共に,従来は負の材料因子とされてきた水素のチタン中での振舞いを活用した斬新な組織構造制御プロセスといえる.また,課題解決に向けた方策として当初計画していなかったSEM内引張試験過程での組織構造解析を実施し,高濃度水素の影響によってチタン結晶粒を分断するように析出した水素化物(デルタδ相)が変形双晶の局所的発生およびその進展・粗大化を抑制した結果,材料全体に大きな均一変形が生じて高い延性を維持できること,また,その水素化物そのものも十分な塑性変形能を有し,引張変形に伴って延性的に振る舞うことを解明した.
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Strategy for Future Research Activity |
上述した成果に基づき,微量水素を含む純チタン焼結材の加工・熱処理において,高温域でのTi結晶格子内への水素原子の固溶によるβ相安定化と,その後の冷却過程でのβ→α相変態による特異なハイブリッド集合組織形成と針状TiH2粒界析出といった水素による連続的時空間での局所ヘテロ構造組織形成プロセスを構築する.これにより①熱間塑性加工後のβ→α相変態過程でのハイブリッド集合組織に起因する延性向上と強度異方性の緩和,②TiH2針状析出化合物をバリアーとした変形双晶の進展抑制による一様伸びの向上とTiH2による結晶粒粗大化抑制(=高強度化)を実現する.その結果,従来は負の材料因子と言われてきた水素原子を用いて,熱間塑性加工過程での相変態とナノ析出により純チタン材でありながらも高強度と高延性を両立できる新奇な材料設計・プロセス設計を確立する.具体的には,熱間押出加工直前のチタン焼結材において,α+β混相状態でのβ相の生成比率を試料温度と水素含有量により変更・制御すれば,ハイブリッド集合組織における<0001>α/<10-10>αの各層間隔【構造】を任意に変化でき,上記の成果(TiH2針状相による変形双晶の進展抑制→一様伸び向上/結晶粒微細化→強度向上)を併せて強度と延性を自在に制御できると考える.そこで,α/β相比率を調整するため,Ti-H状態図から水素量を0.15~0.35wt%とし,β相境界を挟む温度域での押出加工を施して上記の特異集合組織の形成を実証すると共に,引張試験を通じて高延性化と強度異方性の低減効果を検証する.なお,組織構造解析方法として上述したSEM内引張試験を行い,その過程での集合組織形成挙動をEBSDによるその場観察により引張強さ・耐力と連動して解析し,高強度化に資するハイブリッド集合組織構造の適正化を試みる.
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