2015 Fiscal Year Research-status Report
超音波振動が創るマクロ/ミクロ対流を利用した新規凝固組織制御手法の開発
Project/Area Number |
15K14194
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
柳楽 知也 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (00379124)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 超音波振動 / その場観察 / 音響流 / 放射光 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、放射光X線を利用して、超音波振動下において組織形成過程を粒子スケールで時間分解その場観察を行うことにより、超音波振動によって発生するマクロおよびミクロスケールの対流が凝固組織に及ぼす影響を実証的に明らかにすることを目的とした。今年度は、SnおよびAl合金を対象にX線イメージングを利用して超音波振動下でデンドライト成長や溶断などの組織形成過程をその場観察可能な実験装置の開発に成功した。Al合金の実験では、セラミックス製の超音波ホーンを利用することによって、従来のTi合金製で問題となった溶湯中での浸食を克服し、超音波振動を印加することが出来た。超音波振動が引き起こす、一次効果(超音波周波数による結晶の振動)、二次効果(音響流)、キャビテーション効果の中で、二次効果の影響について詳細に調べた。音響流によるマクロスケールの対流による影響は、固液界面付近と固液共存領域内では異なっていた。固液共存領域では、溶質濃度の高い液相が流れこむ下流側では、デンドライトの溶断が著しく発生するが、溶質濃度の低い液相が流れ込む上流側では、デンドライトの溶断はほぼ起こらず固相率が増加し、溶断頻度に差異があることが分かった。さらに、音響流によって、超音波周波数よりも著しく低い周波数で結晶が振動することを初めて見出した。マクロスケールの対流だけでなく、低周波数の振動もデンドライトの溶断に寄与していることを明らかにした。一方、固液界面付近では、マクロスケールの対流の影響を強く受ける。デンドライトの成長速度の低下と溶質輸送の促進により、デンドライトアームの先端が粗大化し、その結果、成長形態が二次枝のないセル状に変化し、ほとんど溶断が起こらないことが分かった。以上の点から、キャビテーションが起こらない条件下でも音響流によって凝固組織は著しく変化することが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度では、超音波振動が引き起こす効果の内、二次効果の音響流によるマクロスケールの対流が凝固組織に及ぼす影響についてX線イメージングを利用したその場観察により調べた。デンドライトの成長形態および成長速度の変化やデンドライトアームの溶断などの様々な組織変化を明らかにすることができた。また、試料セルの工夫などにより、局所的な組織変化だけでなく、マクロスケールの対流のドメインを含む領域で、その場観察することが可能となり、対流の上下流での凝固組織の違いや固液界面の近傍と固液共存領域内での組織形成の違いなどを詳細に調べることが出来た。さらにその場観察から得られたX線の輝度データを基に、定量的な解析を試み、超音波前後での濃度分布や固相率の違いを明らかにすることが出来た。その結果、液相の溶質濃度と組織形成を合わせて考慮することが可能となり、組織形成機構の解明に繋がった。 これまでその場観察することが不可能であった、Al合金に関して、超音波ホーンを新たに開発することにより、従来のSn合金と同様に超音波振動下で組織形成のその場観察が可能となり、Sn合金との違いを知ることが出来た。ただし、結晶の太さや形態などの初期組織の影響などの詳細は不明である。また、一次効果である超音波周波数でのデンドライトの振動が凝固組織に与える影響については、十分に検証することが出来なかった。以上の点を踏まえておおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、金属溶湯中への超音波振動の印加によって発生する三つの主な現象である、一次効果の音響流、二次効果の超音波周波数での振動、キャビテーション効果を切り分けて、それぞれ凝固組織に及ぼす影響についてX線イメージングを利用したその場観察により調べる。 マクロスケールの対流を引き起こす音響流については、試料のセルの工夫、超音波発生装置の出力、超音波ホーンの振幅などの制御により、対流の大きさを変化させ、凝固組織との関係について調べる。 ミクロスケールの対流を引き起こす可能性のある超音波周波数によるデンドライトの振動については、高周波数の振動のみの影響を観察するために、音響流によるマクロスケールの対流を抑制する実験技術の開発を行う。この時、デンドライトの形態、デンドライトアームの太さの変化、デンドライト周囲の濃度変化に着目する。濃度分布に関しては、その場観察によって得られたX線の輝度情報から定量化を試みる。また、超音波印加前の初期のデンドライトアームの太さ、固相率(流動限界の固相率まで)の影響についても調べる。 前年度で開発した実験技術により、従来のSn合金のモデル材料から実用合金に近い、Al-Cu合金へと展開する。Al合金の場合、Sn合金よりも溶湯中にガスを含有しやすいため、超音波振動によって数十ミクロンの多数の気泡の発生・崩壊を繰り返すキャビテーション現象が著しく起こると期待される。このキャビテーションが凝固組織に及ぼす影響(デンドライトの形態変化や溶断)についてその場観察により調べる。
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