2015 Fiscal Year Research-status Report
ニードル刺激によるfoam dryingの乾燥効率の高度化および乾燥履歴の画一化
Project/Area Number |
15K14206
|
Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
今村 維克 岡山大学, 自然科学研究科, 教授 (70294436)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 真空乾燥 / 発泡 / 乾燥履歴 / ニードル刺激 / アモルファス / 香気成分 |
Outline of Annual Research Achievements |
溶液を適当な減圧条件に置くと,溶媒から無数の泡を生じる.発泡により脱溶媒は劇的に進行し,到達する溶媒の残存率(到達乾燥度)も他の乾燥手法と同等以上に低くできる.この発泡・foamingを利用した乾燥手法は,foam dryingと呼ばれ,迅速で省エネルギーかつ溶質の熱劣化が生じないことから,医薬品分野では次世代の有望な乾燥技術と考えられている.しかし,foam dryingでは正確な圧力制御が不可欠であり,このことがfoam dryingの応用の障害となっている.すなわち,急激な減圧は溶液表面に緻密な乾固層を生じ,その後の脱溶媒を著しく阻害する.逆に,減圧の速度がある程度緩やになると気泡の発生が抑制される.foam dryingにおいて発泡・foamingが“いつ”生じるかは同一ロットの試料においても異なり,その結果,乾燥の履歴および到達乾燥度も異なってしまう.いかにして発泡・foamingのタイミングをコントロールし,再現性良く一定の乾燥製品を得るか,はfoam dryingにとって極めて重要な課題なのである. これに対し,申請者は,溶液試料の真空乾燥の際,乾燥のある段階で一度乾燥を中断し(この時点では発泡していない),試料溶液をニードルで刺激すると,再度減圧すると同時に発泡・foamingを開始することを見出した.これまでに数々の溶液試料についてニードル刺激の効果を調べたが,減圧と同時に発泡・foaming する確率は100%である.また,減圧速度を変化させても,溶媒が水でも有機溶媒でも,均一な発泡・foamingが100%の確率で観察されている.そこで,本研究では「ニードル刺激による発泡・foaming誘発現象」を利用してfoam dryingにおける乾燥履歴および到達乾燥度の画一化を目指す.まず,(i)ニードル刺激による発泡・foamingのメカニズムを明らかにし,(ii)ニードル刺激を組み込んだfoam dryingの操作理論の構築を目指す.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
初年度の検討の結果,ニードル刺激がfoamingを誘起するメカニズムをある程度明らかにすることができた: needle挿入時に(肉眼では観察できないほど)微小な気泡種が溶液内に播種され,その気泡種が減圧下で膨張・破裂した結果,破裂・落下した液膜とバルク溶液の間に新たな気泡種群が挟み込まれる.これら気泡種の膨張・破裂と新たな気泡種の生成が連鎖的に発生し,foamingが生じる.Needle刺激により播種された気泡種は液の流動性が高いと密度差により液面に移動・到達し,その界面を失うため,ある程度以上の乾燥・濃縮が必要になると考えられる.さらに初年度は種々の溶媒,溶質の組み合わせについて減圧下におけるfoaming特性とneedle刺激による発泡確率について詳細に検討した.その結果,needle刺激の効果は溶媒の種類や溶質によって顕著に異なり,極性溶媒と極性溶質分子との組み合わせが,vacuum foam dryingによる濃縮系として適用可能であるが,溶質の疎水性および分子サイズが大きいほど,needle刺激によりfoamingを制御できる条件が制限されることが分かった.以上の検討の結果,乾燥試料を効率よく,そして再現性高く調製できることから,後述の固体分散技術(糖の非晶質固体中に界面活性剤を用いる異なる疎水性香気成分を均一に包括すること)が可能となり,その成果は該当分野の国際学会および国際誌にて発表した.
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究成果に基づき,以下の検討を行う. (i)一定の到達乾燥度に要する乾燥時間を最小にするニードル刺激のタイミング(どの乾燥段階で刺激を与えるか)を調査する.溶媒-溶質の組み合わせや溶質濃度によって最適なニードル刺激のタイミングがどのように変化するかを明らかにする.これにより,任意の溶液材料のfoam dryingの(ニードル刺激のタイミングも含めた)条件設定指針を作り上げる; (ii)水と糖からなる水溶液に細胞(大腸菌,酵母など)を一定濃度(105~108個/mL程度)懸濁し,foam dryingを行う.ここで,溶質である糖類は細胞の包括担体としての役割を担っている.Foam drying後の乾燥試料を適当量の精製水で溶解し,生細胞数をコロニーカウント法により計数する.Foam drying前の生細胞数を100%とする細胞生存率を算出する.ニードル刺激のタイミングや糖の種類・濃度などのどのようなfoam drying条件が細胞試料に対して最も適しているか明らかにする; (iii) Foam dryingによって得られた乾燥試料の物理化学的諸物性を詳細に解析する.粉末X線回折分析,温度変調示差走査熱量計,フーリエ変換赤外分光分析,走査型電子顕微鏡により乾燥固体のキャラクタリゼーションを行う.さらに次年度は後述の通り,(iv)vacuum foam dryingによる疎水性物質の固体分散体の調製とその評価を行う.
|
Causes of Carryover |
当初の予定では,次年度は(1)乾燥速度を最短にするニードル刺激条件の探索,(2)不安定物質(大腸菌,蛋白質)の乾燥安定化,(3)vacuum foam dryingによって得られた材料の物理化学的特性の評価,の3点について検討する予定であった.一方,vacuum foam dryingにおける効率・再現性を各段に向上できたことに加え,新たに糖によって形成された非晶質固体中に香気成分や難水溶性薬物を分子レベルで分散・包括する技術を開発した.その新規固体分散技術では,香気成分の保持性および難水溶性物質の分散安定性を如何に向上できるかがポイントなる.そこで,本年度は,上記(1)~(3)の検討に加え,疎水性物質の固体分散化特性に及ぼすvacuum foam drying条件,特にneedle刺激条件の影響を調べることとした.そのため,当初の計上額より必要額が増加し,次年度使用額が新たに計上した額となった.
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
疎水性物質を非晶質固体に分散した固体分散体を調製する際,本研究で取り上げているfoamingのタイミングを制御したvacuum foam dryingを用いる.このとき,foamingを発生させる時間,すなわち乾燥段階を複数変化させて固体分散体を調製する.疎水性物質としてはcinnamaldehydeなどの香気成分とcurcuminなどの疎水性モデル薬剤を用いる.得られた固体分散体における疎水性物質分子の分散状態をエネルギー分散型X線分析により解析する.そして,疎水性物質が香気成分の場合は,香気成分のretentionの度合いを経時的に測定し,疎水性薬物を固体分散する場合は,水(あるいは擬似体液)に溶解したときの薬剤の溶解profileを測定する.香気成分の分散保持能および薬剤の水溶解挙動とneedle刺激のタイミングの関係を明らかにする.
|