2015 Fiscal Year Research-status Report
次世代バイオマス資源の高選択的変換に有効に働く固体触媒の創製
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15K14224
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Research Institution | Kochi University |
Principal Investigator |
恩田 歩武 高知大学, 教育研究部総合科学系複合領域科学部門, 講師 (80335918)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
平岡 雅規 高知大学, 教育研究部総合科学系黒潮圏科学部門, 准教授 (30380306)
椿 俊太郎 東京工業大学, 理工学研究科, 助教 (90595878)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | バイオマス / 海藻 / 海藻固有多糖 / 固体酸 / 触媒 / 水熱反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
海洋性の海藻は、収穫サイクル、炭水化物含有率、リグニンを含まない、扱いやすいサイズ、淡水利用と競合しないなど多くの利点を有し、次世代バイオマス資源の中心の1つになると期待される。本研究では、バイオマス資源としての海藻の化学変換プロセス開発に必要な知見の獲得を行う。特に、海藻固有のオリゴ糖および単糖生成に有効に働く新規な固体触媒の創製を目指す。 今年度は、海藻の種類として、成長速度の極めて高いミナミアオノリを中心に行った。この種は、四国原産種であるが、本実験では再現性を重視し、我々が既に開発した胞子集塊化法により水槽で海藻を養殖培養することにより、化学研究グレードの海藻サンプルを生産した。得られた海藻から、エタノール沈殿法により海藻固有多糖(ウルバン)を抽出した。ここで遊離無機イオンの残存が問題となったが、海藻の洗浄により簡便に純度をHPLCグレードに向上できることを見出した。そして得られたウルバンは、硫酸化ラムノースとグルクロン酸が主にβ型結合でつながった分子量70万程度の多糖であることを物性評価した。 この海藻多糖(ウルバン)は、200℃以下の水熱反応(無触媒)では加水分解されにくく、単糖収率は低かった。そこで、これまでのセルロース糖化などの知見をもとに、種々の固体触媒を用いた触媒水熱法によるウルバン加水分解を試みた。その結果、スルホ基を有するスチレン系樹脂触媒が、金属酸化物系の固体酸触媒やスルホン化活性炭などのスルホ基を有するグラフェン系固体酸触媒よりも高い触媒活性・単糖選択性を示すことを確認した。 本年度の検討により、高い再現性でミナミアオノリから海藻多糖(ウルバン)を得られること、130℃程度の温和な水熱条件において樹脂系固体触媒を用いてほぼ化学量論収率で単糖のラムノースを得られることを示し、藻類の生産・多糖抽出・単糖変換プロセスの実現が期待できることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H27年度において検討を行った項目は以下の3点であり、研究実施計画はほぼ達成していると考えている。(1)胞子集塊化法によるミナミアオノリの陸上培養、(2)簡便な方法によるミナミアオノリからウルバン(多糖)の抽出・精製・物性評価、(3)ウルバンの水熱反応挙動の解明および固体触媒を用いた選択的加水分解。 具体的な成果を以下に示す。 既知のミナミアオノリ株を,胞子集塊化法による浮遊式育成法により1t水槽で培養し,湿重量で20kg以上のミナミアオノリを得た.それを,真水による洗浄-多糖の温水抽出-エタノール沈殿により,ウルバンを抽出した.得られたウルバンを,触媒水熱法により加水分解した.ウルバン水溶液(0.5%)に触媒を加え,マイクロウェーブ反応装置により100-180oCの所定温度・時間で加熱した.得られた水溶液は,HPLC(RIおよびUV), TOC, ICにより分析した.反応物および樹脂系触媒は,CHNS元素分析を行った. 酸性質を有する様々な固体触媒を用いて,ウルバンの触媒水熱反応を行った.130oC, 30分の結果を示す.無触媒では,ほとんど反応が起こらず,反応温度180oCでもウルバンは水熱安定性が高く、加水分解生成物のラムノースはほとんど得られなかった.次に固体触媒として,ゼオライトなどの金属酸化物系触媒を用いたところ,触媒活性が低かった.カルボキシル基を表面に多く有する活性炭触媒は,反応後の溶液中のTOC値の減少から吸着が確認されたものの,加水分解活性は低かった.一方,スチレン系の強酸性イオン交換樹脂触媒を用いた時は,ラムノースが多く生成した.その触媒活性は,スルホ基の数と同程度の希硫酸(0.03 M)と比較できる程度であった。また,繰り返し実験においても触媒活性を維持した.このことから,スチレン樹脂系強酸性触媒は,固体触媒的にウルバンを加水分解することが示唆された.
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Strategy for Future Research Activity |
H28年度は、基本的には、H27年度と同様に行う。(1)ミナミアオノリ以外の3~5種類の海藻にも着目し、それら海藻が固有に含有する硫酸化多糖の高効率糖化をめざして、引き続き、触媒の改良および反応条件の検討を行う。(2)実海藻に共存する金属イオンやタンパク質の共存効果を明らかにする。(3)実海藻からの硫酸化多糖由来の固有の単糖・オリゴ糖への高収率糖化の実現をめざす。(4)海藻の全利用に対する知見を獲得する。 実海藻は、加水分解後の単糖比から構成多糖比、タンパク質、脂質、金属イオンの成分分析の他、粉末XRD(現有), FTIR(現有), 電子顕微鏡(SEM, TEM:現有)、EDX装置を用いて分析する。特に、抽出過程および触媒試験においては、カーボンバランスを評価したのち,各分画成分の元素バランス(N,P,C,O)、GC-MS、HPLC(High Performance Liquid Chromatography)、GPC(Gel Permission Chromatography)、LC-TOFMS(Time-Of-Flight Mass Spectrometry)などの手法を用いて定量的に分析する.
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Causes of Carryover |
購入予定のHPLC分析用のRI検出器(HITACHI・L-2490、1台、\1,050,000)が必要でなくなったため、大幅な予算の節約が可能となった。これは実験の進行にともない、測定条件が明確となり、また、フェノール硫酸法や誘導体化(アセチル化、TMS化)法などHPLC法以外の海藻多糖を分析する方法に想定より早く習熟したために、HPLC分析に関しては既存の機器で十分進められたためである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
実験のセットアップが予想以上に順調にすすみ、反応生成物の分析機器を購入せずに工夫できたために生じた予算を、触媒開発を効率的にすすめるために用いる。具体的には、触媒特性を評価するための分光セル、温度調節器、マスフローメーター、真空ポンプ(いずれも50万円以下)の購入とのため使用予定である。
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Research Products
(8 results)