2015 Fiscal Year Research-status Report
低分子二重特異性抗体の機能的な構造の解明に向けた既存抗ペプチド抗体の結晶化抗体化
Project/Area Number |
15K14227
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
浅野 竜太郎 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (80323103)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田中 良和 北海道大学, 先端生命科学研究科(研究院), 准教授 (20374225)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 蛋白質 / バイオテクノロジー |
Outline of Annual Research Achievements |
低分子二重特異性抗体は、次世代抗体医薬として期待されているが、実用化された例は海外で1件のみであり、機能的なシーズをデザインするための技術基盤が未整備、特に立体構造情報が欠落していることに一因がある。構造解析に向けては結晶化抗体の利用が考えられるが、新たな抗体の取得は容易ではなく、また汎用性もない。本研究は、既に特異的抗体との共結晶構造が報告されている抗原ペプチドを低分子二重特異性抗体に含まれるリンカーに組み込むことで、当該特異的抗体を結晶化抗体として利用し、その機能的な構造を解明することを目的としている。 Ex3はがん関連抗原であるヒト上皮増殖因子受容体(EGFR)とリンパ球表面抗原であるCD3を標的としたディアボディ型二重特異性抗体である。本年度は、まず蛋白質構造データバンク(PDB)から抗体-抗原ペプチドの共結晶構造情報を抽出し、抗体中に深く埋没しておらずアクセスビリティが高いことや、対応する特異的抗体の親和性が高いこと、など様々な観点からリンカーに組み込む抗原ペプチドの選定を進め、最終的に、精製・検出に用いられる抗ペプチドタグ抗体を2種類含む5種類のペプチド-抗体複合体を選別した。一方で、短いペプチドは5アミノ酸程度であったため、リンカーに組み込んだ際に、立体障害により特異的抗体が結合できないことが懸念された。そこで、リンカーへの挿入に先駆けてEx3のリンカー長の延長の許容性に関して検討を行った。従来のリンカーの3倍の長さを有するEx3を調製し、機能評価を行ったところ、報告されている自己集合体の形成の促進は見られず、興味深いことに活性の向上が認められた。このことから、抗原ペプチドの挿入の際には両末端方向に対してある程度のスペーサー配列の挿入が可能であることが分かったため、今後はペプチドの長さに応じた適切なリンカー配列をデザインする予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は、まずデータベースから抗体-抗原ペプチドの共結晶構造情報を抽出し、抗体中に深く埋没しておらずアクセスビリティが高いことなどを指標にリンカーに組み込む抗原ペプチドの選定を進め、精製・検出に用いられるペプチドタグ抗体を2種類含む5種類のペプチド-抗体複合体を選別した。この際、抗体の中心部に向かって埋没しているペプチド、即ちどちらか一方の末端が露出していないペプチド-抗体複合体は候補から除外したが、両末端が露出しているもののペプチド長が短いものは、リンカーに組み込んだ際に、立体障害により特異的抗体が結合できないことが懸念された。そこで、リンカーへの挿入に先駆けてEx3のリンカー長の延長の許容性に関する予備検討を進めた。低分子二重特異性抗体のリンカー長の延長は、フレキシビリティの向上に伴う、自己組織化の促進がしばしば観察されることが報告されている。しかしながら、従来のリンカーの3倍の長さを有するEx3の発現ベクターを作製し、大腸菌発現系を用いて調製したところ、ゲル濾過で顕著な高分子量の分子種の増加は認められなかったため、抗原ペプチドの挿入の際には両方向に対してある程度のスペーサー配列の挿入が可能であることが分かった。当初は、選定したペプチドを挿入したEx3の作製、および特異的抗体の全合成を進める予定であったが、前述の通り、予備実験としてリンカー長の許容性の確認を行う必要性が生じたため、全体としては、やや遅れているとした。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、本年度選別した抗体-抗原ペプチドの共結晶構造情報をもとに、実際に当該ペプチドをリンカーに挿入したEx3と当該ペプチド特異的抗体の全合成、および調製へと進める。特に、Ex3は分子内に2つのリンカーが含まれるが、これまでに得られている知見より、組み込むリンカーの選択も発現量に影響を及ぼす可能性が示唆されている。リンカー改変Ex3は、大腸菌を用いて発現させ、精製を試みるが、結晶化が目的であるため、思うような収量が得られない改変体は、候補から除外して進める。選択した抗原ペプチド特異的抗体は、多くがFab抗体であったが、抗ペプチドタグ抗体の1つは、scFvの形態、かつ大腸菌発現系を用いて調製されていたため、実績から調製が容易であることが期待される。この抗ペプチドタグ抗体の検討からまず着手し、その後、Fab抗体に関しても研究を進めるが、Fabは分子間のジスルフィド結合のかけ違いが懸念される。例えば、ジスルフィド結合に関わるシステイン残基を除去後、かい離を防ぐために人工のポリペプチドリンカーで一本鎖化させた、一本鎖Fabの利用も視野に検討を進めるが、やはり分子量の大きさからFabの大腸菌を用いた調製は必ずしも容易ではないことが予想される。通常、IgGからパパイン消化による調製が最も効率的であり、申請代表者は既にIgG化する発現ベクターも構築済みであるため、Fvの配列情報を得るだけで容易にIgGの発現ベクターを構築することができる。このため、大腸菌発現系の構築が困難な場合は、IgG化と動物細胞を用いた一過性発現も視野に、また有望な抗体の場合、汎用性の拡大を目的に安定産生株の樹立も視野に進める。
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Causes of Carryover |
次年度は、まずデータベースを基に、抗体-抗原ペプチドの共結晶構造情報を抽出し、得られたペプチド配列を挿入したEx3の作製と、抗当該ペプチド抗体の全合成を行う予定であった。しかしながら、進捗に伴い予備実験としてリンカー長の許容性の確認を行う必要性が生じ、実際にリンカー長を延長させたEx3の調製と機能評価を進めたため、リンカー改変Ex3発現ベクターの作製、および抗ペプチド抗体の全合成を進めるには至らなかったため未使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は、未使用額を用いて、まず本年度選別した抗体-抗原ペプチドの共結晶構造情報をもとに、実際に当該ペプチドをリンカーに挿入したEx3と当該ペプチド特異的抗体の全合成、および調製を行う。さらに、それぞれ本来の活性が担保されていることを確認後、研究分担者と協働して結晶化へと進める。
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Research Products
(5 results)